老人性認知症の予防進行対策


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MCI(軽度認知症)は治すことができる

 

軽度認知症の予防と改善 

 

2015年11月14日に放送されたNHKスペシャル 第1回 「ついにわかった! 予防への道」の放送内容や認知症専門医のお話を参考にまとめて記事にしたものです。
 
最新の研究で、認知症の予備軍であるMCI(軽度認知症)は、早期に対策すれば認知症への進行を予防し健常者レベルに戻ることがわかっています。
 
我が国では2050年に認知症患者が1000万人を越えると推測されています。
 
世界でも増え続いている認知症、先進各国は特効薬を開発するため必死の研究が続けられています。
 
MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)とは、「軽度認知症」といい正常と認知症の境目にあたり、認知症の予備軍と位置づけされています。
 
現在、MCIの患者は400万人もいるといわれていますが、この時期に適切な対応を取ることで認知症への進行を予防できる可能性が高くなります。

 

   

 

MCIを放置すると5年で5割が認知症に進行

 
MCIは、認知症の前段階であり、明らかな認知症の症状はないが、年相応の認知障害の範囲から外れていて非常に曖昧な状態をいいます。
 
以下のような症状がみられたらMCIかもしれません。専門医を受診しましょう。
 
 
◎物忘れがあって、本人も自覚している。
 
◎周囲から「物忘れがひどい」などと言われる。
 
◎「物忘れテスト」で記憶障害が認められる。
 
◎記憶以外の判断力や会話能力、見当識(※)は正常であり日常生活もひとりでできる。
 
◎仕事上で多少の支障がでることがある。
 
 
「見当識」とは、現在の季節や年月、時刻、自分がいる場所など基本的な状況把握。
 
 
MCIと診断されると約5割の人が5年以内に認知症に進行するといわれています。
 
研究では、このMCIからの進行をくい止めることができれば、認知症を予防できることが分かってきました。現在、日本に400万人いるといわれているMCI、予防や改善に取り組みましょう。
 
米国でMCIの方600人を対象にした疫学調査が行われ、調査開始から5年後に行われた結果でMCIを改善出来ることがわかりました。
 
 
◎5割が認知症にすすんだ
 
◎4割がMCIの状態に変化がなかった
 
◎1割が正常に改善した
 
 
MCIの状態を何も対策をせずに放っておくと、1年後には約1割、5年後には5割の患者が認知症に進行するといわれています。
 
このMCIの時期に薬物療法などの適切な治療と認知機能を高めるトレーニングを取り入れることで約2年近く認知症に進行するのを予防できるといわれています。
 
2年以降は個人差があるため明確なデータは存在していませんが、薬物療法を続けることで進行を緩やかにできることが分かっています。
 
最近の統計的でも、MCIと診断されて1年後に認知症を発症する方が約1割、その後、何も対策をせずに過ごした場合、5年以内に認知症を発症する割合が約半数の5割になっています。
 
MCIの時期に確りとした認知症対策を実行することで、認知症を予防改善できることが分かっています。

 

   

 

MCIの判断基準

 

軽度認知症の傾向項目 

 

MCIと一般的な物忘れは判別しにくいところもありますが、次のことを参考にしましょう。
 
◎年相応以上の物忘れがある
 
◎物忘れが以前よりも増えている
 
◎人に迷惑をかけている
 
◎文字が書けなくなることがある
 
◎人の名前が出てこない
 
 
例えば、テレビに出る俳優の名前が出てこないのは通常の物忘れと判断します。
 
以上の項目に心当たりがある方は「物忘れ外来」を受診しましょう。

 

MCIの人は歩くスピードが遅い

 

MCIでは歩行スピードが遅い 

 

MCIのMRI画像診断では、認知症の脳のようにすき間は見当たらず、萎縮もしていません。
 
MCIの脳で起こっていることがわかってきました。
 
脳内ネットワークに異変が生じています。
 
脳内ネットワークは、すべての行動に関与し、脳内の離れた様々な場所が働き、協調、協力することで正常に作動しています。
 
MCIでは、脳内の感覚のネットワークの結び付きの強さが低下していることがわかっています。
 
MCIでは、 脳内ネットワークの結び付きが明らかに弱く、認知症では更に衰えた状態になっています。
 
行動を観察することで脳内ネットワークの弱まりを知ることができるのです。
 
 
◎歩く速さが遅い
 
◎足の運び方がおかしい(歩幅が狭く、バランスが悪い)
 
◎ふらつきがある(足裏の圧力が一定でないため、ふらつきやすくなる)
 
 
以上の状態は、視覚や空間認識をつかさどる脳内ネットワークが働いているものの、弱まっていると判断できるのです。
 
バランスを取るための脳内ネットワークが低下していることになります。
 
歩くスピードをストップウォッチで計り、認知症へのリスクを調査した結果では、歩くスピードが遅いと1.5倍、さらに記憶力が劣っていると2倍も認知症のリスクが高まることがわかっています。
 
横断歩道は、通常秒速100センチ(1メートル)で渡れるように設定してあります。
 
しかし、歩くスピードが遅くなると青信号のうちに渡りきれなくなります。
 
その見分け方の一つに歩き方、歩行動作にサインがあらわれます。
 
脳のネットワークに障害が起きると歩く速さに影響があらわれます。

 

MCI、歩く速さの目安は秒速80cm以下

 

軽度認知症は青信号で渡れなくなる

 

 
MCIの人では、脳内ネットワークのつながりが弱くなり脳内ネットワークの損傷の影響で歩くスピードが遅く、歩幅が狭くなります。
 
では、具体的な歩くスピードとは、どのくらいの速さでしょうか。
 
「秒速80cm以下」の場合は注意が必要です。
 
横断歩道を青信号で渡りきれない場合は、軽度認知障害の可能性があります。
 
以下のことに取り組めば、脳内ネットワークが改善してMCIの予防と改善が期待できます。
 
1.週に3回早歩きを30分程度行う。(心拍数120程度を目安)
 
2.動物性タンパク質を減らして野菜や果物、魚類中心の食事にする。
 
3.記憶力のゲームをする。
 
4.血圧管理、健康診断、健康相談をする。
 
5.歩幅を少し広くして歩く。

 

   

 

MCIの特徴

 

◎趣味をやめる。
意欲が低下して、長年続けていた趣味を続けることが出来なくなります。うまく出来なくなり、楽しさが感じなくなりやめてしまいます。
 
◎パーティーなどがおっくう、面倒で出席しない。
外出したり、人に会うことが面倒になります。
 
◎服装が気にならなくなる。
身の回りのの事に無頓着になり、服装のことなども面倒に感じるようになります。
 
◎小銭が増える。
買い物をしてお札のみを出し、小銭を組み合わせ支払うことができなくなると認知症の可能性が高いといえます。
 
◎手のこんだ料理を作らなくなる。
料理を作るには段取りや要領が必要です。「遂行機能」に障害されると段取りが悪くなり、何をやっても手間取るようになって、作らないようになります。
 
◎料理の味が変わる。
調味料の分量があいまいとなって味付けが変わります。
 
◎車をこする。
自動車の運転は、同時にいくつもの動作を必要とします。ハンドル操作を正確に出来なくなり、操作を誤って事故につながるリスクが高まります。

 

 

認知障害が改善する例も

 

MCIの患者の中には、数年経過しても1割程度は進行せず、4割程度は現状のままか、又は若干の改善が見られています。
 
このように正常に戻った例も多く報告されていますので悲観的にならずに希望を持って前向きに治療や認知機能回復トレーニングに取り組みましょう。
 
身近な人に言動の異変が起こったら、出来る限りの早めに専門医の診察を受けるべきです。
 
本人に認知症の自覚症状があり、自分から専門医の診察を受けるのが理想的です。

 

 

強引に連れて行くのは問題

 

患者の中には病院に行きたがらないケースも多くみられます。
 
家族などの身近な人が半ば強引に連れて行くのは後でトラブルの原因になって治療や家族のサポートに支障をきたすことになりますので注意が必要です。
 
そんなときは、身近な人に受診をすすめてもらいましょう。 
 
◎かかりつけの医師からすすめてもらう。
 
◎友人や知人からすすめてもらう。
 
◎地域包括センターに相談してアドバイスを受けましょう。
 
◎認知症外来では家族だけの事前相談も受け付けています。

 

 

認知症の検査

 

まず、体の状態を把握するために問診や内科的な検診が行われます。
 
問診や聴診では、血液検査、認知機能の低下の原因を調べます。

 

問診

MCIでは問診でほぼ診断することができます。
 
診断の基準となるのは「認知機能の低下の程度」や「日常生活への影響」です。
 
日常生活にあまり影響が出ていなければMCI、日常生活に影響が出ていれば認知症の疑いがあり、認知症が疑われる場合は更に詳しい検査をします。

 

内科的な検査

一般的な血液検査の他に、ビタミンB 12や甲状腺機能低下による認知機能の低下がないかを検査します。

 

MCIスクリーニング検査

最近は、検査技術が向上して、血液検査だけでMCIのリスクを知ることができます。
 
MCIスクリーニング検査は、血液7ccを採血して認知症に関係する3種類のたんぱく質の量を調べて診断します。

 

MCIスクリーニング検査ができる医療機関

 

1.インターネットで「株式会社MCBI 検査実施医療機関」と検索する。
 
2.「MCIスクリーニング検査」を行っている医療機関を決める。
 
3.事前に連絡して予約する。
 
4.医療機関で約7ccの血液を採血する。
 
 
採血からおよそ2から3週間後に検査結果がでます。

 

 

認知症を予防する3種類のたんぱく質

 

1、アポリポたんぱく質A1
脂質の代謝に関係しているたんぱく質。
 
2、トランスサイレチン
中枢神経系の疾患に関係しているたんぱく質。
 
3、補体第3成分
免疫機能に関係しているたんぱく質。
 
以上の3種類のたんぱく質が認知症の原因になっている老廃物のアミロイドβを脳内から排出する働きをしています。
 
これらのたんぱく質が少なくなると認知症のリスクが高まります。

 

   

 

MCIの進行を予防改善する食べ物

 

MCIと診断されたら、薬物療法やトレーニング、生活習慣の改善などによって認知症への進行を遅らせ、改善することが可能です。
 
認知機能障害の進行には個人差がありますが、前向きに取り組むことがとても大切です。
 
世界の多くの疫学調査からしても、生活習慣病は日常の食事に大きく影響されるといっても過言ではありません。
 
認知症の予防効果が確認されている食材やオイルがあるので積極的に摂取するように心がけましょう。

 

血管を改善する 

 

脳の細かい血管がもろくなると細い血管から少し出血をする微小出血が起こり、その周囲の細胞が死滅してしまいます。
 
これは、認知症が一気に進行する原因になります。
 
血管の状態を良くすることが大切です。
 
毎日の食事を見直しましょう。食事は認知症予防の大きなポイントです。
 
大まかな食事の基本は以下の通りです。
 
高血圧や高血糖を予防することが大切です。
 
◎果物を食べる
 
◎野菜や魚を食べる
 
◎肉や塩分を減らす
 
速歩きと食事を改善したフィンランドの研究からは、25%も状態が改善した結果が得られています。
 
認知症予防の具体的な食事のポイントをご紹介します。

 

脳の情報伝達を促進する青魚のDHAやEPA

 
青魚のDHAやEPAが認知症を予防 
 
サバやイワシ、マグロなどの青魚に多く含まれているDHAやEPAはオメガ3系脂肪酸で脳の情報伝達を促進して認知症を予防する効果があることが分かっています。
 
また、野菜や果物に多く含まれている抗酸化物質のポリフェノールやビタミンC、ビタミンEなどは活性酸素を除去してくれます。
 
ポリフェノールには、認知症や糖尿病、がんなどの生活習慣病を抑制する働きがある事が分かっていますので積極的に摂取しましょう。

 

血管を守るオイルはオメガ3系脂肪酸

 

 

オメガ3脂肪酸のオイルを摂取する
 
オメガ3系脂肪酸を多く含んでいるエゴマ油やアマニ油には認知症を予防する効果があることが分かっています。
 
オメガ3系脂肪酸は不安定で熱に弱い性質がありますので、野菜サラダや野菜ジュースなどに加えて摂取しましょう。
 
アーモンドやクルミなどの木の実も良質なオイルが含まれていますのでおすすめです。
 
是非とも習慣的に召し上がりましょう。

 

ω-3脂肪酸のα-リノレン・DHA・EPAは生活習慣を予防 

   

 

ポリフェノールを含む野菜や果物

 

ポリフェノールを含む野菜や果物 

 

 
ポリフェノールは、体内の余分な活性酸素を除去する抗酸化作用や抗炎症作用、抗腫瘍作用などがあります。
 
体内に活性酸素が増えると細胞や血管を傷つけて血管がもろくなって認知症のリスクを高めます。
 
細胞の酸化や炎症は、老化を早める原因にもなりますので、ポリフェノールを多く含んでいる野菜や果物を積極的に食べましょう。
 
特に旬の野菜や果物には豊富なポリフェノールが含まれていますので、積極的に取り入れましょう。

 

ポリフェノールを多く含くむ納豆、味噌、赤ワイン、チョコ 

 

コリンを含んでいる肉類や卵、大豆製品

 
肉や卵、納豆 
 
肉や卵は良質なたんぱく質であり、全てのアミノ酸を含んでいる完全食品です。
 
細胞や血管を丈夫にする大切な栄養素です。
 
ただ、肉類の食べ過ぎは胃腸の負担になりますので注意が必要です。
 
豚肉や牛肉は脂身の少ないロース肉を食べるようにしましょう。
 
牛や豚のレバー、卵、大豆などには、水溶性ビタミンのコリンが豊富に含まれており、認知症の予防効果が報告されています。
 
コリンは記憶力や脳の様々な機能を維持するためにも必要な栄養素で、アルツハイマー型認知症の患者は、コリンが不足しているという報告もあります。
 
コリンを含んでいるその他の食べ物では、玄米、小麦胚芽、さつまいも、トウモロコシ、ブロッコリーなどがあります。

 

糖質はほどほどに

 
ご飯やパン、麺などの炭水化物は糖質を多く含み、血糖値の上昇につながります。
 
でも、糖質を全く摂らない糖質制限食は危険が伴います。
 
普通のお米や小麦ではなく、玄米や胚芽パンにすれば効率よくビタミンやミネラル類を摂取することができます。
 
糖尿病などの血糖値が高い状態が続く人の血液はドロドロ状態になって栄養や酸素が末端の組織に届かなくなって認知症などのさまざまな疾患の原因になります。

 

 

脳内ネットワークを強くする

脳内ネットワークの結び付きを強くする 

 

週に3回、1回あたり1時間程度、息がはずむ程度のウォーキングを継続することで「VEGF」といわれる物質の分泌が促進されて、老朽化した血管の代わりに新しい血管が作られることが解明されています。
 
また、速歩きすることで「BDNF」といわれる物質が分泌されて、神経細胞を作り脳内
ネットワークを強くすることも分かっています。
 
「VEGF」と「BDNF」の2つの物質を作るために速歩きと組み合わせて次のことも行いましょう。
 
◎楽しいことや好きなことを習慣にする、例えばエステに通う、生け花など
 
◎毎日音楽を聴く
 クラッシック音楽など好きな音楽を聴く、認知症治療には音楽療法もある
 
◎筋力トレーニング
 
◎ゲームを週に3回、各10分程度
(又は将棋やチェスなどの対戦相手がいるものを週に1回程度)
 
◎異性とのふれあい
(ダンスなどで異性と接することで脳の刺激となります。高齢者のセックスも認知症予防になる研究結果があります)
 
◎声を出して歌う
 

速歩きを毎日の生活に取り入れましょう

 
◎速歩きの強度は脈拍120回が目安
(運動のための運動ではなく、生活のなかで取り入れることで長く継続して行うことが出来ます)
 
◎歩幅を5センチ増やす
(歩幅を増やすことで体にも適度な負担がかかり、脳に刺激がいきます)

 

ウォーキングを習慣化 行動すれば人生が変わる 

 

認知症の初期には、薬の処方

 

認知症の薬 ドネペジル 

 

認知症の進行を予防する薬に「ドネペジル」があります。
 
また、認知症を完治させる薬は開発されていませんが、「ドネペジル」は既存の認知症薬の中では最も効果が高い薬として知られています。
 
MCIの方に認知症の兆候が見られ、患者の希望がある場合には「ドネペジル」が処方されます。
 
認知症では、脳内の情報伝達物質であるアセチルコリンが減少していることが分かっています。
 
アセチルコリンが減少する原因は、アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼが増加することにあります。
 
「ドネペジル」は、このアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害することでアセチルコリンの減少を防ぎ、情報伝達がスムーズにいくように作用します。
 
脳梗塞の治療薬「シロシタゾール」は脳内ネットワークを改善する薬として臨床研究が進んでいます。2019年からの使用を目指しています。
 
がんの早期発見と同様にMCIも早期発見できれば予防、改善できるのです。
 
日常の生活習慣がMCIを予防改善するポイントですので、食事、運動、記憶機能改善トレーニングなどに積極的に取り組みましょう。


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