老人性認知症の予防進行対策


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要介護の手前フレイルのを予防・改善しましょう

 

要介護の入り口「フレイル」とは

 

要介護の手前フレイルの状態を改善 

 

これまで「虚弱」の概念ははっきり定義されていませんでした。
 
例えば「年のせいだからしょうがない」、「弱っていくのは病気ではない」など病気とは意識されていませんでした。
 
そこで日本老年医学会は、高齢者の「虚弱な状態」は予防も治療もできる病態であり、早期に発見して介入すれば健康な状態に戻れることを知ってもらうために、あえて「フレイル(Frailty)」という言葉を提唱しました。
 
「フレイル」には、心理面や社会面の虚弱も含む多面的な概念であるということを含んでいます。
 
これまでも、高齢者の体の機能低下を表現する言葉に「ロコモティブシンドローム」や「サルコペニア」などがあります。
 
この「フレイル」は、健康な状態から要介護状態へ向かう中間地点の段階のことで認知機能や意欲など肉体的な障害以外の状態も含まれています。
 
フレイルの状態、位置づけ 
出典:「国立長寿医療研究センター」
 
 
高齢者では、個人差がありますが心身の機能の低下が顕在化します。
 
体の機能や体力の最大能力と平常時の能力の差を「予備能力」と言いますが、この予備能力が低くなると急な時に対応ができない恐れがあります。
 
フレイルは具体的には高齢者の衰弱、筋力の低下、活動性の低下、認知機能の低下、精神活動の低下など健康障害を起こしやすい脆弱な状態を指しています。
 
「フレイル」は身体面だけに着目されがちですが、次の事がお互いに影響し合う多面性と多元性があります。
 
1.低栄養、口腔機能の低下、運動器障害などの身体的フレイル
 
2.軽度認知障害、認知症、うつなどの精神・心理的フレイル
 
3.閉じこもり、孤立、孤独などの社会的フレイル
 
 
フレイル 多次元図
 
フレイルの多面性 
出典:「厚生労働省科学特別研究事業」
 
 
「フレイル」の状態である高齢者に対して、適切に介入をすることにより要介護状態にならないように予防・改善することで再び元の健康な状態に戻すことが期待されます。
 
我が国は、世界一の長寿国でありますが、「平均寿命」と自分で自立した生活が送れる「健康寿命」との年齢差が男性で約9年、女性で約12年もあります。
 
このことが大きな要因となり、国の医療費は毎年1兆円ずつ増加しています。
 
また、介護および介護予防サービスに要する費用は年間で8兆円を超えています。
 
この様な状況下で「健康寿命」を延伸することが国の命題になっています。
 

「フレイル」のアメリカの評価法

 

日本では、「フレイル」について具体的な診断基準が統一されておらず、アメリカのフレイルの評価方法は以下の通りです。
 
5つの項目の中で3つに当てはまると「フレイル」の可能性があります。
 
1.体重が減った。(1年間に2、3kg以上の減少)
 
2.歩く速度が遅くなった。(青信号を渡り切れない)
 
3.握力が落ちた。(買い物の荷物を持つのが大変)
 
4.疲れやすくなった。(以前と比較して疲れる)
 
5.出かけなくなった。(外出することがおっくうになった)
 
以上の5項目に全く該当しない場合は健常高齢者と判定されます。
 
今後、策定される日本版フレイルでは、認知機能、社会的な環境も加味して策定されるようです。
 

京都大学の荒井秀典教授は、フレイルの予防法をあげています。

 

1.タンパク質とビタミン、ミネラルを含む食事の摂取しましょう。
 
2.ストレッチ、ウォーキングなどの運動を習慣化しましょう。
 
3.感染予防のためにワクチン接種しましょう。
 
4.身体の活動量や認知機能のチェックしましょう。
 
5.薬の種類が多い方は主治医と相談し整理し減らしましょう。
 

 

オーラルフレイルとは

 

フレイル「食」から考える虚弱フロー
出典:「厚生労働省」

 

 

オーラルフレイルとは、口腔機能の栄養に関する概念で口腔と栄養の総合的な予防対策が重要視されています。

 

オーラルフレイルは、次の4つの段階に分類されています。

 

1.前フレイル期
歯周病や残存歯数の低下の兆候が表れる段階。

 

2.オーラルフレイル期
活舌低下や食べこぼし、わずかなむせ、噛めない食品の増加など口腔機能の軽度低下に伴う食習慣の悪化の兆候が現れる段階。
 
3.サルコ・ロコモ期
咬合力や舌運動の低下など口腔機能の低下が顕在化し、サルコペニアやロコモティブシンドローム、低栄養状態になる段階。

 

4.フレイル期
最終的な段階で、摂食嚥下障害や咀嚼機能不全から要介護状態やフレイル、運動・栄養障害になる段階。
 
 
以上の段階で、「前フレイル期」と「オーラルフレイル期」が重要であり、いかに早い段階でフレイルの兆候に気付いて意識や行動を変えて要介護状態にならないように予防や改善することが重要です。

 

サルコペニアとは

 

サルコペニアとは、運動器の機能障害によって移動機能が低下する「ロコモティブシンドローム」を構成する疾患です。
 
サルコペニアでは、特に下肢の筋肉の低下がみられ、バランスを維持できずに、ふらついたり転倒するリスクが高いといえます。
 
加齢に伴って、骨格筋量が減少し筋力が低下した状態をいいます。
 
サルコペニアの診断 
現在、骨間筋量を測定する手法として「DAX法装置」が採用されています。
 
これは、四肢の骨間筋の筋量を身長(m)の二乗で割った四肢筋量指数(SMI)が用いられています。
 
男性では、6.87(kg/u)、女性では5.46(kg/u)のカットオフ値(病態識別値)が提案されており、日本人の70〜85歳の6〜7%がサルコペニアに相当するといわれています。
 
サプリメントや治療薬の状況
減少した骨格筋を増加させるための栄養素は、必須アミノ酸やたんぱく質、ホルモン類、ビタミンDなどや、交感神経β受容体活性化薬(β2作用薬)が使用されています。
 
男性ホルモンのテストステロンは、男性更年期障害に用いられる機会が増加しています。
 
サルコペニアに用いられる薬剤

薬剤

副作用

先行研究の結果

必須アミノ酸 特になし 床上安静で筋量減少を防止
テストステロン

多血症、肝機能障害、
睡眠時無呼吸症候群、前立せん肥大

筋量増加、脂肪量減少、
筋力不変

成長ホルモン

むくみ、関節痛、肝機能障害、
糖尿病

筋量増加、脂肪量減少
ビタミンD 高カルシウム血症 歩行速度増加、筋力不変
β2作用薬 狭心症、頻脈、不整脈

筋力増加、
筋力・持久力不変

 

表中の薬剤の中には、様々な副作用が記されています。
 
体内に取り込まれたのちにテストステロンに変換されるアナボリックステロイドでは男性ホルモンの一種ですが、攻撃性が高まって凶暴な事件を起こしたケースもあります。
 
ドーピングの対象薬になっています。
 
ビタミンDの過剰摂取は、血中のカルシウム量が増加することで吐き気や下痢などの副作用が起こったり、カルシウムが臓器に沈着することで、腎臓では尿毒症などの重大な病気を引き起こす危険性もあります。
 
β2活性薬のクレンブテロールは、過去に筋肥大の効果を有するためドーピングに用いられました。心筋への影響も挙げられています。
 
薬剤服用での運動時の注意 
薬剤を服用している時の運動において注意すべき点は、副作用の多血症では運動中に脱水が加わると血栓症のリスクが高まるので、小まめな水分補給が大切です。
 
また、高齢者の運動においては、たとえ薬剤を服用していなくても運動の許容範囲を確認して無理のない範囲で行うことが重要です。

 

 

たんぱく質の摂取も大切です
 
 
フレイル たんぱく質を食べる 
 
肥満などの生活習慣病の予防や改善で野菜中心の食事にだと、たんぱく質不足になり筋肉量を維持できません。
 
日常生活に支障が出てきたら初期のフレイルの可能性があります。
 
特に、食事が細くなり、体重が減少して、歩くスピードが遅くなり、外出する機会が減少するのは、フレイルの危険信号です。
 
青信号の間に横断歩道を渡り切れるかどうかが一つの目安になります。
 
この様な兆候が見られたら、放置せずに専門医に相談しましょう。
 
筋力が落ちると活動量が減少して、認知症の要因にもなります。
 
ウォーキングなどの運動を習慣化するとともに、毎日の食事には、肉、魚、卵、乳製品、大豆製品などタンパク質を摂取して要介護状態にならないように予防・改善しましょう。


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