歯周病・糖尿病の認知症リスクの研究
超高齢社会の日本では、認知症患者数が460万人を超え、2025年には700万人に達すると推計されています。
認知症の種類の中で、最も多いのがアルツハイマー型認知症で全体の6割以上を占めると考えられています。
2017年11月10日に、日本の認知症患者の割合が経済協力開発機構に加盟の35か国中で最も高いことが報告されました。
報告書によると、2017年の日本の人口に対する認知症有病率は2.33%で20年後の2037年には、3.8%、約5人に1人が認知症に罹患すると推定されています。
歯周病と認知症の関係は?
認知症の特効薬はまだ開発されていません。
歯周病と認知症の関連については、これまでに多くの研究結果が報告されていて、歯周病が認知症のリスクを高めることが分かっています。
マウスを使った実験では、マウスに歯周病を起こさせると認知機能が低下することが分かっています。
また、歯周病のマウスはアルツハイマー型認知症にもなりやすいことが報告されています。
最新の研究は2017年、名古屋市立大学大学院と国立研究開発法人国立長寿医療研究センター、松本歯科大学、愛知学院大学、名古屋大学などの共同研究によって、歯周病がアルツハイマー病分子病態と記憶学習能力の増悪をもたらすことを世界で初めて明らかにしています。
この研究結果は、2017年11月6日に英国科学誌「npj Aging and Mechanisms of Disease(エイジングと疾病メカニズム)」に掲載されています。
本研究では、歯周病に感染させたマウスを3か月間飼育して、脳内のたんぱく質アミロイドβの量を測定したてところ、歯周病を感染させなかったマウスに比べて顕著に上昇し、脳内炎症分子の上昇も認められ、記憶学習能力の有意な低下が見られましたと報告しています。
その詳細は、歯周病原細菌の一種である「ポルフィロモナス・ジンジバリス」に感染したアルツハイマー病のモデルマウスでは、認知機能が低下し、脳内のアミロイドβペプチドの沈着が増加することが明らかになりました。
また、血清中や脳内の炎症性サイトカインや細菌エンドトキシンが増加すること、更にそれらの炎症メディエーターによって神経炎症が引き起こされて、最終的にアルツハイマー病の病態を増悪する可能性が示唆されました。
歯周病の治療や口腔ケアによってアルツハイマー型認知症の発症予防や症状の進行を抑制できることが期待されると結論付けています。
糖尿病と認知症の関係は?
糖尿病は生活習慣病の代表的な疾患ですが、認知症との関係も高いことが分かっています。
九州大学は、1961年から福岡県糟屋郡久山町の住民8400人を対象にして壮大な疫学調査を行っております。
最新の久山町の研究では、アルツハイマー型認知症の方の脳の海馬で、複数の遺伝子の働きに異常が発見されています。
その中にはインスリンと関連する遺伝子も複数含まれ、関連する遺伝子の働きが低下しているために糖を十分に利用できず、血糖値が上昇して糖尿病を発症することで、アルツハイマー型認知症が進行するのではないかと考えられています。
血糖値が常に高い糖尿病では血管が損傷して脳血管の障害につながりやすく、認知症を発症するリスクが高まる事が分かっています。
研究によると、糖尿病の患者は糖尿病ではない人に比べて認知症を発症するリスクが約2倍も高いと報告されています。
血液中のヘモグロビンとブドウ糖が結合した状態を示すHbA1cの検査値が7%以上であると認知症のリスクが3.7倍にもなるとの調査結果も報告されています。
認知症と加齢による物忘れの違いは?
物忘れには、加齢による物忘れと認知症による物忘れがあります。
加齢による物忘れでは、忘れたという認識がありますが、認知症では忘れたことに対しての自覚がありません。
また、加齢による物忘れでは重要な事は覚えていますが、認知症では重要な事も忘れるのが特徴です。
更に、加齢による物忘れは加齢とともにゆっくりと進みますが、認知症では進行が速い特徴があります。
その他にも認知症では、最近の記憶も乏しくなります。昨夜のご飯の内容や現在の時間や場所もわからなくなる見当識障害が起こります。
認知症は遺伝する?
認知症は遺伝をする可能性もあります。
遺伝の場合は、若い比較的年代で発症するケースが多いようです。
認知症の種類「三大認知症」とは?
アルツハイマー型認知症とは
脳が萎縮するアルツハイマー型認知症。
20年~30年かけて徐々に脳の萎縮が進み、認知機能が低下していきます。
脳が委縮して、頭蓋骨との間にすき間ができることや脳に「老人斑」とよばれるシミのような斑点状の病変がみられます。
この「老人斑」は、たんぱく質のアミロイドβという物質のかたまりです。
このアミロイドβは脳内の老廃物で、本来は分解されて排出される物質ですが、加齢とともに分解されにくくなって、脳の神経細胞にたまり、老人斑になります。
アミロイドβが脳内にたまると神経細胞が損傷して神経細胞間の情報伝達がスムーズにいかなくなってアルツハイマー型認知症の原因になると考えられています。
また、アミロイドβが長年かけて蓄積された後、リン酸化されることで「タウたんぱく質」という病変があらわれます。
タウたんぱく質は、見た目に糸くずのような病変となり、神経細胞の死滅に関係していると考えられています。
脳血管性認知症
脳の細い血管が詰まったり、出血して起こる脳血管性認知症。
脳血管性認知症は、アルツハイマー型認知症の次に多い認知症で合併している場合もあります。
脳血管性認知症は、脳梗塞やくも膜下出血、脳出血などの脳卒中によって脳が血液のかたまりで圧迫されたり、血管が詰まって栄養や酸素が届かなくなって脳細胞が壊死して起こります。
実際には、大きな脳梗塞ではなく、小規模の脳梗塞が蓄積されて認知症を発症することが多いといわれています。
脳血管性認知症は、脳卒中の発症をきっかけに突然に認知症を発症します。そして、脳卒中の発作が起きるたびに段階的に認知症が進行します。
レビー小体型認知症
脳にレビー小体と呼ばれる特殊な物質ができるレビー小体型認知症。
レビー小体型認知症は、脳の神経細胞に存在しているα-シヌクレインと呼ばれるたんぱく質が核となり、この周囲にたんぱく質が集まり丸い形状をしたレビー小体が形成されます。
直径が30~50ミクロン程度の小さな物質です。
レビー小体がたまると神経細胞が変質して死滅しますが、レビー小体ができる原因は解明されていません。
レビー小体は、脳の他にも脊髄や末梢神経など様々な部位に生じることが分かっています。
レビー小体が生じる場所によって異なる症状を生じます。
認知機能を司っている大脳皮質や脳幹にレビー小体がたまるとレビー小体型認知症を発症することが分かっています。
レビー小体型認知症は高齢者に多く発症しますが、まれに30~40歳代にもみられ、多くの場合は最初は筋肉のこわばりなどのパーキンソン病の症状から始まります。
最初はパーキンソン病と診断されることが多いのですが、その後、妄想や幻視などの症状があらわれ、脳のレビー小体が確認されてレビー小体型認知症と診断される場合もあります。
まじめで、几帳面な人に発症しやすいといわれています。
認知症は完治するか?
認知症を治す特効薬はまだ開発されていません。
認知症は一旦発症すると進行しますが、進行を遅らせる治療薬はあります。
認知症の進行に合わせたケアが重要になります。
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