軽い運動でも血糖値は下がる
血糖値を下げる働きがあるホルモンはすい臓から分泌されるインスリンであることは広く知られていますが、筋肉が収縮することでインスリンとは全く別のホルモンが働き血糖値を下げる事が解明されました。
以前から糖尿病の患者には血糖値を下げるために適度な運動が推奨されていましたが、今回そのメカニズムが解明されました。
研究を行っているのは首都大学東京大学院人間健康科学研究科の藤井宣晴教授で筋肉によって多種多様のホルモンが作り出されていることを発見しました。
これらのホルモンが血液の流れに乗って全身に届けられて体の健康を維持していることを証明しようとしています。
血糖値の他の研究をご紹介
脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンというホルモンがインスリンの働きを助けて糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防に貢献している事が解明されていますが、アディポネンチンはインスリンに働きかけるホルモンです。
ちなみにアディポネクチンはメタボリックシンドロームになると分泌が少なくなることがわかっています。
アディポネクチンは糖尿病を予防する必要なホルモン
また、インスリンの分泌を促進させるホルモンのインクレチンは腸が食事を吸収する時に腸から分泌されますが、このインクレチンはすい臓のβ細胞に働きかけてインスリンの蓄積・分泌を促進させる働きがあります。
特に食事の時に野菜や魚を先に食べるとインクレチンが多く分泌されることがわかっています。
AMPキナーゼが血糖値を下げる
今回の筋肉が作り出す善玉ホルモンの研究は内閣府の「最先端・次世代研究開発支援プログラム」に選ばれ国の後押を受け進められています。
筋肉の収縮が血糖値を下げるメカニズムは藤井宣晴教授の上司になるロ−リー・グッドイヤー博士が「筋肉の収縮によってインスリンとは全く違う経路で糖が筋肉に取り込まれている」という画期的な論文を発表していました。
その後、グッドイヤー博士は筋肉細胞中の「AMPキナーゼ」という酵素が糖を取り込んでいる事実を突き止めたそうです。
AMPキナーゼが血糖値を下げるメカニズム
藤井宣晴教授はAMPキナーゼが血糖値を下げるメカニズムについて次のように述べています。
「人が運動して筋肉を動かすときは、細胞中のATP(アデノシン3リン酸)というエネルギーの「蓄電池」を利用します。ATPがエネルギーを出すとADP(アデノシン2リン酸)という物質に変化し、更にエネルギーを出すとAMP(アデノシン1リン酸)に変化します。
こうして細胞内のATPが減ると逆にAMPが増え、それに応じてAMPキナーゼに活性化のスイッチが入ります。するとAMPキナーゼは血液中の糖を筋肉細胞に取り込み、低下したATPのエネルギーを補充する働きをするのです。
AMPキナーゼはもともと筋肉細胞に存在する酵素であり、細胞のエネルギー量を監視するセンサーの役目を果たしています。
その存在は以前から知られていましたが、構造が複雑なこともあり、何のために存在しているのか、よく分かっていませんでした。それがようやく解明されたのです。
これに対しインスリンは、すい臓のランゲルハンス島という組織で作られて血液中に分泌されるホルモンで、筋肉細胞の外側から筋肉に糖の取り入れを促すという違いがあります。」
メタボリックシンドロームは高血糖を招く
内臓脂肪によっても血糖値が上がる事がわかっています。
脂肪細胞は本来エネルギー源として貯蔵されているので、エネルギーに変換するときには脂肪は分解されてグリセロールに変換されて肝臓で糖に変わってエネルギー源として血液中に送られます。
エネルギーとして使わなかった糖は膵臓から分泌されるインスリンによって分解されて細胞の中に取り込まれます。
肥満が進んで脂肪細胞が多ければグリセロールの量も多くるためインスリンも大量に必要となります。
インスリンが過剰に分泌されているとインスリンの効果が低下して高血糖の状態が続くようになります。
脂肪の吸収を阻害する腸内細菌バクテロイデス
以上のように脂肪細胞と糖尿病には深い関係があります。
近年の腸内フローラの研究では腸内細菌のバクテロイデスが生成する短鎖脂肪酸が血中に取り込まれると脂肪が脂肪細胞に取り込まれるのを阻害するとともに脂肪を筋肉細胞に取り込んで燃焼させる働きが解明されています。
腸内にバクテロイデスを増やす食品として、ゴボウや玉ねぎなどの根菜類やキノコ類、海藻類、納豆やメカブなどがあります。
肥満を防止する腸内フローラ 短鎖脂肪酸とバクテロイデス
筋肉を収縮させる運動強度は
運動をすることで血糖値が下がることが科学的に解明されたことはインスリンの分泌が少ない方にとってビックニュースだといえます。
運動と聞くと、ついハードなスポーツなどを連想しがちですが、普段の生活の中でも工夫をすれば出来る程度の運動強度で効果があります。
今回の研究では低い運動強度でもAMPキナーゼが活性化されることが確認されているそうです。ですから、無理に頑張って激しい運動をする必要はありません。
逆にハードな運動は、体内に活性酸素を多量に発生させて細胞を傷つけることが分かっています。
日常生活の中で小まめに体を動かすことを意識しましょう。
「記事参照元」
筋肉がホルモンを出して糖尿病、がん、アルツハイマー病などのリスクを防ぐ