ノロウイルスの予防 感染と症状、治療
近年、冬場になるとノロウイルスの感染が拡大して問題となっています。
ノロウイルスは、毎年11月頃から流行が始まり1月から2月頃にピークを迎え3月にはおさまりますが、年中人への感染が確認されています。
私たちの生活環境は清潔化しているのに反面でノロウイルスやインフルエンザなどの感染症は終息することなく、更にデング熱やエボラ出血熱などの新たな感染症が流行しています。
ノロウイルスとは
ノロウイルスは1968年アメリカのオハイオ州ノーウォークという町の小学校で急性胃腸炎が集団発生し、糞便から発見されたウイルスで、その地名にちなんで命名されました。
年 |
ノロウイルスの歴史 |
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1968年 |
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1972年 |
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1997年 |
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2002年 |
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2003年 |
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ノロウイルスは世界中に分布しており欧米やオーストラリアなどでも感染が報告されています。
ノロウイルスはウイルスが増殖する培養細胞がまだ発見されていないことからウイルスの性質を調べることが難しく対策を立てにくい点があります。
ウイルスは細菌とは異なり細胞を持っていません。
ノロウイルスは、たんぱく質の囲いにRNAが一本入っているだけの構造になっています。
RNAはウイルスの増殖の過程でDNAよりもミスコピーを起こしやすく変異して新型ウイルスを生みやすいことが明らかになっています。
また、ノロウイルスは耐酸性と耐熱性が非常に高く口から入って感染した場合、強酸の胃酸でも死滅せずに小腸まで届いて増殖します。
ノロウイルスは人の小腸に届かなければ増殖することができません。
例えば、手などにケガをしていて、そこにノロウイルスが付着しても小腸に到達できずノロウイルス感染症を発症することはありません。
手に付いたノロウイルスが口に入ることで小腸まで届いて感染が成立します。
ノロウイルスの感染
人のふん便中のノロウイルスは、トイレで流されて下水から海へ流れ込み、カキやハマグリ、あさりなどの二枚貝に蓄積され、十分に加熱せずに食べることで感染します。
例えば、カキは海水に浮遊しているプランクトンをエサにしているため多くの海水を吸引してプランクトンを獲得していますが、同時に海水に含まれているノロウイルスも吸引し内臓に濃縮、蓄積しています。
そのようなカキを、生食や不十分な加熱で食べることでノロウイルスに感染してしまいます。
ノロウイルスは、人の腸内でしか増殖することが出来ません。従って、感染経路は殆どが口から感染して小腸に到達して増殖します。
次のような感染経路が報告されていますので予防や対策に生かしましょう。
1.感染者のふん便やおう吐物などから他の人の手などに感染。
2.せきやくしゃみなどによって飛び散る飛沫によって感染。
3.食品の製造や調理に従事する感染者が接触した食べ物などから感染。
4.汚染されたカキやアサリなどの二枚貝を十分に加熱処理せずに食した場合に感染。
5.ノロウイルスに汚染された簡易水などを飲んで感染。
ノロウイルスの症状
ノロウイルスの感染後の潜伏期間は12時間から72時間で、小腸の上皮細胞で増殖して小腸に炎症を起こし腹痛と下痢を発症します。
ノロウイルスの症状 |
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主症状 |
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その他の症状 |
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ふん便 |
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治癒 |
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発病率 |
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胃の中の食べ物を小腸へ送る働きが低下するため吐き気や嘔吐が起こります。
ノロウイルスの嘔吐は突然起きる特徴があり、トイレまで行く時間的な余裕がなく身辺や部屋に嘔吐する事があります。
この事が、ノロウイルスの感染拡大を助長しています。
嘔吐は小児や高齢者に多くみられますが重症化すると嘔吐を頻繁に繰り返します。成人では多くの場合で水溶性の下痢がみられます。
その他の症状として発熱、筋肉痛、頭痛なども起こります。
これらの症状が1日から2日程度続いた後に治癒して後遺症などは報告されていません。
ノロウイルスの治療
ノロウイルスに対する抗ウイルス剤は開発されていません。
よって、対症療法になり下痢などの脱水症状があるときは十分な水分補給が肝要です。
水分補給には、経口補水液またはスポーツドリンクを人肌に温めてから飲むことが推奨されています。
これらが無ければ、100mgに食塩を0.9gを溶かした生理食塩水を人肌に温めて飲むことでも代えられます。
何れも、温めて飲むのは弱った胃腸を冷やさないようにするためで、炭酸飲料やジュースなどは胃腸に負担がかかるためおすすめできません。
特に体力の弱い高齢者や乳幼児の場合は、水分と栄養の十分な補給に心がけて、脱水症状が重度の時は医療機関で点滴などの治療が必要になります。
下痢が強い時でも、下痢止めはノロウイルスが腸内に留まって回復を遅らせることがあるので、注意が必要です。
食欲が出てきても注意すること
症状がおさまって食欲がわいてきても、胃腸にやさしい食べ物を摂りましょう。
揚げ物や脂肪分の多い食べ物は避けて消化の良いお粥やうどんにして塩分も控えめにしましょう。
また、カボチャやジャガイモを煮込んだスープなどもおすすめです。
胃の粘膜を保護したり細胞を組成するたんぱく質は、豆腐やたまご、白身魚などから摂取しましょう。
ヨーグルトなどの乳酸菌は、腸内フローラを整える働きがありノロウイルスの感染によって乱れた腸内環境を改善してくれます。
下痢によって、腸内の善玉菌が流出し、腸内細菌のバランスが崩れますので、乳酸菌入りの整腸剤も効果があります。
ノロウイルスの予防
1.トイレは感染源
トイレは特に感染率が高い場所です。便器はもとよりドアノブ、蛇口など多数の人が触れる場所です。手から手へ感染して口に入れば二次感染を起こします。
トイレを流した時に目には見えませんが、水しぶきに付着したノロウイルスが飛び散っている可能性があります。トイレを流す前にはフタを締めましょう。
2.十分な加熱と適切な消毒
キッチンでは、まな板や包丁、食器、へら、ふきん、タオルなども人の手を介して菌が移りやすいところですので、85℃以上の熱湯で1分以上の加熱が有効です。毎日しっかり洗って消毒しましょう。
ノロウイルスには、エタノールや逆性石鹸では十分な消毒ができないので、台所用漂白剤の次亜塩素酸ナトリウムなどを使って消毒をしましょう。
消毒液の作り方
A.便やおう吐物が付着した床や衣類
500mlの水に10ml(キャップ2杯)の次亜塩素酸ナトリウムを入れた消毒液を使う。
B.便座やドアノブ、調理器具などの手が触れる部分に使う。
2Lの水に10ml(キャップ2杯)の次亜塩素酸ナトリウムを入れた消毒液を使う。
3.二枚貝は十分な加熱
世界保健機関などが定めた指針では二枚貝の加熱調理では中心部が85℃から90℃で少なくとも90秒間の加熱が必要とされています。十分に加熱しましょう。
4.手洗い
ノロウイルスは、飛沫感染や手から口への感染がほとんどです。外から帰って来たら必ず、しっかりと手洗いを行いましょう。
まずは、手の洗浄をしっかりするとこで感染のリスクを低減できます。
特にノロウイルスは小さく、手のしわなどに入りこんで感染のタイミングを狙っています。爪と指の皮膚の間や内側や手のひらのシワに入り込んでいますので、指の先を使って手のひらに円を書くように入念に洗いましょう。
ノロウイルスに効果のある消毒液として次亜塩素酸ナトリウムがあります。
手洗いの手順
1.腕時計や指輪を外しましょう。
2.石鹸を付けずに流水のみで手や指の表面の汚れを落としましょう。
3.次に石鹸を泡立てて手のひら、手の甲、両手の指の間を組んで十分に洗いましょう。
4.指を一本ずつ反対の手のひらで包んで、しごくように洗いましょう。
5.手のひらのシワ部分を指の先を使って良く洗いましょう。
6.手首をつかんでもみ洗います
7.爪ブラシを使って爪の間も入念に洗い流しましょう。
8.流水でよくすすいで石けんを落としましょう。
9.ペーパータオルなどで水気をしっかりとりましょう。
10.次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒用アルコールがあれば両手につけてすり込みましょう。
おう吐物の処置
ノロウイルスの感染者のおう吐物には多くのノロウイルスが存在しています。
感染者の便やおう吐物には、1g当たり100万個から10億個ものノロウイルスが含まれているといわれています。
汚物を正しく処理することが、感染を防ぐためには大変重要です。
うっかり、素手で触ったりすると感染してしまいます。
また、おう吐物が乾燥して空気中に浮遊することでも感染しますので、おう吐物の処理は手袋やマスクを装着して慎重に行いましょう。
次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒液を使っておう吐した場所を消毒しましょう。
フローリングなどの床におう吐した場合の消毒
ノロウイルス感染者がはフローリングなどの床におう吐した場合、マスクやゴム手袋を装着しておう吐物を処理してビニール袋などで密封しましょう。
その後、おう吐した部分に1枚の新聞紙をかぶせて、消毒液5%(水1Lに対して20ml)を吹きかけましょう。
カーペットにおう吐した場合の消毒
カーペットやじゅうたんにおう吐した場合は、おう吐物を処理した後に布などをかぶせて、アイロンをかけましょう。ウイルスは熱で死滅します。
症状が治まっても、1週間程度は便にノロウイルスが含まれていますので、手洗いと消毒は欠かさずに行いましょう。
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