アレルギーは免疫のバランスが大切だけど何故か知っているかい?


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病原菌を貪食するマクロファージ 
私たちには生まれつき自然免疫と呼ばれている免疫システムが備わっています。
 
ウイルスや細菌が体内に侵入してくると免疫システムはこれらを異物と認識して排除しようと働きます。
 
例えは風邪を引くと熱が出たり、鼻水やせきが出ますが、この症状は免疫システムが働いて風邪のウイルスを殺したり体外に排出しようとする過程で起こる免疫システムの反応です。
 
もし、この免疫システムが働いてくれなければ、細菌やウイルスが体内にまん延、はびこって、すぐに生命が危険にさらされてしまいます。
 
この様に体に細菌やウイルスなどの有害な物質を排除する免疫システムは大変重要な働きですが、害のない花粉や食べ物などに免疫システムが働いて攻撃をすることでアレルギーとして様々な症状を起こしてしまいます。

 

「目 次」

 

 1. なぜアレルギーは慢性化するのか

 

 2. 免疫の過剰反応がアレルギー

 

 3. B細胞が免疫グロブリンをつくる

 

 4. アレルギーに関係する免疫グロブリンIgE 抗体

 

 5. ヒスタミンなどの化学物質を放出する理由

 

 6. アレルギーを起こさない人がいるのはなぜ

 

 7. アレルギーと深い関係のTレグ細胞(制御性T細胞)とは

 

 8. 免疫のバランス表

 

 9. 感想とまとめ

 

 

なぜアレルギーは慢性化するのか

 
例えは、食べ物に対するアレルギーのことを食物アレルギーといいますが、本来は人に害を及ぼすことのない卵や牛乳、ソバ、小麦などに対して免疫システムが異物だと判断するため、これを排除しようとする時にアレルギー症状を引き起こすことになります。
 
また、花粉やハウスダストなどを異物と認識して、これらがアレルゲン(アレルギーの原因物質)になると花粉症やアトピー性皮膚炎を起こし、くしゃみやせき、皮膚のかゆみ、下痢など人によって様々な症状となって表れます。
 
問題なのは、このアレルギー疾患は治りにくく慢性化する疾患であることです。
 
なぜ、治りにくいのか、それは免疫システムの記憶力にあるからです。
 
子どもの頃に麻疹やおたふく風邪の予防接種を行った人も多いと思います。
 
予防接種は人為的に弱い伝染病ウイルスに感染させて免疫システムにそのウイルスを記憶させます。
 
次にそのウイルスが侵入した時に免疫システムは記憶したウイルスや細菌を即座に攻撃して殺したり排除したりします。
 
これは「二度なし現象」として知られていますが、過去に侵入した異物を記憶していているのです。
 
ここにアレルギーを起こしてしまう問題があります。
 
本来は害のない物質を免疫システムが攻撃すべき有害物質として認識することで抗体が作られて反応するためにアレルギー症状が起こるのです。

 

 

免疫の過剰反応がアレルギー

 

免疫の過剰によっておこるアレルギー 

 

私たちの体の免疫システムを担っているのが、マクロファージや樹状細胞、T 細胞、B細胞などの白血球です。
 
なぜ、白血球に免疫細胞が集中しているのでしょうか。白血球は全身をめぐっている血中に存在することで全身をパトロールして異物が侵入した時にすぐに対応して火消しができるように臨戦体勢を整えています。
 
体内に異物が 侵入したときに最前線で対応するのが貪食細胞のマクロファージで、「貪食」の字のごとく侵入したウイルスや細菌をかたっぱしから食べて分解します。
 
この時にマクロファージは、サイトカインという物質を出して周辺の免疫細胞に異物の情報を伝えて臨戦態勢を整えるように知らせます。
 
風邪を引いたときなど、治りかけの時に痰(たん)が黄色くなったり、転んで膝をケガした時にかさぶたができる前に黄色い膜が作られますが、これらは免疫細胞の好中球に殺された細菌やウイルスの残骸です。
 
この好中球は最前線で働くマクロファージのサイトカインを認識して呼び寄せられた免疫システムの仲間なのです。
 
これらの免疫は「自然免疫」といって生まれながらに備わっている免疫システムです。
 
ご存じのように細菌やウイルスには様々なものがあり、最近になって新たに発見された細菌やウイルスことを報じるニュースで初めて知ることもあります。
 
生まれながらに備わっている自然免疫だけで対応できればよいのですが、細菌やウイルスも増殖して子孫を増やそうと頑張りますので、そう簡単ではありません。
 
最前線で働くマクロファージの次に控えているのが樹状細胞です。樹状細胞はマクロファージと同様に貪食細胞でもありますが、細菌やウイルスの断片をつかんでリンパ節まで運びTヘルパー 細胞に異物の情報を伝えます。
 
これを「抗原提示」といいます。マクロファージも抗原提示の能力を持っていますが、樹状細胞の抗原提示の方が強力です。
 
樹状細胞やマクロファージから抗原提示を受けたヘルパーT 細胞はB 細胞に抗原に対する抗体を製造するように指示を出します。
 
この抗体をつくる働きは「獲得免疫」とよばれ、前述の「二度なし現象」に関係しています。
 
B細胞がつくる抗体は抗原ごとに結合部分の形状が異なっており、1つの抗原に対して1つの抗体が特異的に対応するようにつくられます。

 

   

 

B細胞が免疫グロブリンをつくる

 

ここで樹状細胞から運ばれて提示された抗原が細菌やウイルスなどの体に害を及ぼす危険性が大きければ1型ヘルパーT 細胞(Th1)が活性化してウイルスや細菌に感染した細胞を殺傷するキラーT細胞を活性化させ、B細胞には抗体をつくるように指令を出します。
 
B細胞がつくる抗体の免疫グロブリンは全部で5種類ありますが、細菌やウイルスに対応する抗体には「IgG抗体」が対応します。
 
その一方で有害性が低く、生命のリスクがない花粉やダニなどの有害性の低い異物が繰り返し侵入してくると樹状細胞は2型ヘルパーT細胞(Th2)に情報を伝えます。
 
この2型ヘルパーT細胞(Th2)がB細胞に抗体の製造するように指令を出してつくられるのが免疫グロブリンのIgE抗体です。

 

アレルギーに関係する免疫グロブリンIgE 抗体

 

2型ヘルパーT細胞(Th2)がB 細胞に抗体の製造するように指令を出すときの情報はサイトカインであるインターロイキン4(IL4)とインターロイキン13(IL13)を分泌することによって伝達されます。
 
一方で2型ヘルパーT細胞(Th2)に抗原提示をした樹状細胞もこれらのサイトカインの刺激を受けて細胞の表面にIgE受容体をつくります。
 
そしてIgE抗体がIgE受容体に結合すると樹状細胞はアレルゲンと結合しやすくなり、2型ヘルパーT細胞(Th2)への抗原提示の頻度が増加し、指令を受けたB細胞は更に多くのIgE抗体を量産することになります。
 
この様にして、たくさんつくられたIgE抗体は皮膚や粘膜に存在するマスト細胞(肥満細胞)にも結合します。この結合した状態を「感作(かんさ)」といいます。
 
そして、次に花粉やダニなどのアレルゲンが体内に再び侵入してくるとIgE抗体が捕らえ、IgE受容体が刺激されることでマスト細胞に含まれているヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質が放出されます。
 
これらの化学物質が、くしゃみや鼻水、咳、かゆみ、下痢などのアレルギー症状を引き越す原因物質なのです。

 

   

 

ヒスタミンなどの化学物質を放出する理由

 

本来は、寄生虫を排除するためにIgE抗体がつくられたといわれています。
 
近年、寄生虫が少なくなって免疫システムよってダニやスギ花粉にはIgE抗体が対応するようになったようです。
 
体を守るための免疫反応ですので必要不可欠であることは確かですが、免疫が過剰に反応してしまうと体にとってダメージになります。
 
花粉症の症状を引き起こす原因物質のヒスタミンは放出されるとすぐに分解されるため長続きしません。
 
一方のロイコトリエンはアレルゲンの排除を長続きさせる物質であるため、鼻水やかゆみなどのアレルギー症状が長引いてしまう原因となっています。

 

アレルギーを起こさない人がいるのはなぜ

 

今から約100年前の1900年前後はアレルギー症状を起こす人は殆どいませんでした。
 
先進国に共通してアレルギー患者が増え始めたのが1960年代以降のことです。
 
その後は年を追うごとに急増しなぜアレルギー疾患が増えているのか原因が分かりませんでした。
 
そこである研究者が唱えた「衛生仮説」が注目されるようになります。
 
第二次世界大戦後の1948年にドイツが西ドイツと東ドイツに分断された後、より劣悪な衛生環境であった東ドイツの人の方がアレルギー疾患が有意に少なかったのです。
 
先ほどのお話を思い出してください、1型ヘルパーT細胞(Th1)は細菌やウイルスの除去を担当し、 2型ヘルパーT細胞(Th2)は花粉やダニ、食べ物などの軽いアレルゲンに対応しています。
 
このTh1とTh2は逆相関(一方が増えれば他方が減少)の関係にあって、東ドイツより清潔な環境であった西ドイツではTh1が減少し、Th2が増加したためアレルギー疾患が多くなったと仮説がたてられたのです。
 
この「衛生仮説」が正しいとする研究者が増えて定着しつつある中で、同一の環境に住んでいても人によってアレルギー症状を起こす人と起こさない人がいるのは何故だという疑問が残りました。
 
この様な背景の中で、更に2つの免疫細胞が関係していることが分かってきました。
 
その一つが制御性T細胞(Tレグ細胞)、もう一つが17型ヘルパーT細胞(Th17)です。

 

   

 

アレルギーと深い関係のTレグ細胞(制御性T細胞)とは

 

Tレグ細胞はアレルギーの新たな治療の可能性を開く免疫細胞として注目されるようになりました。
 
発見したのは、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文(さかぐちしもん)教授で、1995年のことです。
 
Tレグ細胞は、字のごとく制御をする働きを持つ免疫細胞です。
 
先程、ご説明をしたように1型ヘルパーT細胞(Th1)が過剰に働くと自己免疫疾患に、また2型ヘルパーT 細胞(Th2)が過剰に働くとアレルギー疾患になることが分かっていますので、どちらが過剰に反応しても私たちの体に害を及ぼしてしまいます。
 
そこで、Tレグ細胞がこれらの免疫細胞が過剰に働かないように制御しているのです。
 
Th1もTh2も分化する前は同じナイーブT細胞です。生まれたばかりの赤ちゃんは細菌やウイルスに触れていないので分化する前のナイーブT細胞しか存在しません。生後様々な細菌やウイルスに接することでTh1に分化します。
 
しかし、細菌やウイルスに接する機会が少ないとTh2に分化するナイーブT細胞の割合が増加してアレルギー疾患が増えています。先程の衛生仮説を裏付ける結果といえます。
 
Th1とTh2がバランス良く存在することが大切です。このバランスを制御しているのがTレグ細胞なのです。
 
問題なのは、環境が清潔になりすぎた影響でTレグ細胞が減少してアレルギー疾患や自己免疫疾患が増加したということなのです。
 
Th1とTh2は逆相関の関係ですから、一方が増えるともう一方は減る関係です。Th1は細菌やウイルスを排除する司令塔の役割を担っていますが、2つの種類に分かれています。
 
その免疫細胞が17型ヘルパーT細胞(Th17)と呼ばれ細菌を専門に担当している免疫細胞です。この免疫細胞はインターロイキン17(IL17)という炎症性のサイトカインを分泌し、好中球を活性化させることが分かっています。
 
よって、Th17が活性化しすぎると細胞が炎症を起こして自己免疫疾患を起こすと考えられています。

 

   

 

免疫のバランス表

 

 

健康な状態

アレルギー疾患

自己免疫疾患

がん

   Th1

正常

過小

正常

過小

   Th17

正常

過多

過多

過小

   Th2

正常

過多

正常

過小

   Tレグ細胞

正常

過小

過小

過多

 

私たちの免疫新テムは、Th1、Th17、Th2、そしてTレグ細胞の4つの免疫細胞のバランスで成り立っています。
 
これらの全ての免疫細胞がお互いに牽制しながら増減を繰り返していますが、アンバランスになることで表中の疾患を発症しやすくなります。
 
アンバランスになる原因は近年の清潔過ぎる環境にあることが分かっています。
 

感想とまとめ

 

筆者は、以前よりアレルギー疾患の増加原因は近年の生活習慣病の急増と似ていると思っていました。
 
糖尿病や肥満などの生活習慣病は、戦後、高度経済成長に伴い生活環境が一変し飽食に起因しています。
 
人類のDNAはいつ食べ物にありつけるかわからなかった飢餓時代がとても長かったため摂取した栄養素を蓄えるようにプログラミングされています。
 
何万年かの歴史のなかで醸成された栄養素を溜め込むDNAの記憶は簡単に書き換えられることはありません。なぜなら、飽食の時代は、わずか50から60年のことですから。
 
飽食や過食によって体の代謝機能に異常をきたしていると言っても過言ではないと思います。
 
そして、今から100年ほど前までは細菌やウイルスに感染して多くの人が亡くなり平均寿命も50年ほどでした。
 
住環境を清潔にして多くの細菌やウイルスを排除することに成功したことで人類の寿命も飛躍的に伸びた経緯があります。
 
しかし、極端に清潔な環境が人類の免疫システムのバランスを崩しアレルギー疾患や自己免疫疾患が急増していると思われます。
 
以上のように恵まれ過ぎた食習慣や過度に清潔な住環境は、皮肉にも目覚しい経済や医療の発展によって実現されました。
 
本来の人類が持っているDNAや免疫システムは、この近代的な環境に順応できていないため私たち体に様々な症状を起こしていると考えられるかもしれません。


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