全身に転移したがん細胞を死滅させる光免疫療法


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光免疫療法はがん細胞を消滅させる治療 制御性T細胞を破壊

 

光免疫療法のイメージ図 

 

人類が長年にわたって戦ってきた、がん細胞を死滅させて完治させる治療法が確立されています。
 
転移した悪性腫瘍のがんを手術をすることなく、数日の短期間で死滅させる画期的、強力な治療法が開発され、数年後には実用化される見込みであることが報告されています。
 
治療の名称は「光免疫療法」と呼ばれていますが、人の免疫システムのお話も含めてご紹介いたします。
 
現在、がんに対する主な治療法は「がんを除去する手術」、「抗がん剤を使った化学療法」、「がんに放射線を照射する放射線治療」ですが、何れの治療法にしても正常な細胞にもダメージが及び患者には大きな負担がかかります。
 
がん細胞だけを破壊する画期的ながん治療が研究開発されて現在アメリカで臨床実験が始まっています。
 
この治療法は、「近赤外光線免疫療法」、又は「光免疫療法」と呼ばれ、米国国立衛生研究所(NIH)、米国国立がん研究所に所属する日本人「小林久隆先生」が開発しました。
 
光免疫療法はオバマ大統領が「健康な細胞は傷つけず、がん細胞だけを殺す新治療法につながるかもしれない」と一般教書演説で取り上げた治療法です。
 
この光免疫療法は非常に強力で特定の対象にしか反応しない(特異性)のでがん細胞に対しての効果が非常に高く、反面でがん患者の体には負担をかけない優しい治療なのです。
 

 光免疫療法を開発した小林久隆先生は、京都大学を卒業後、医師としてがんと向き合ううちに外科手術や放射線、抗がん剤などのこれまでの治療に限界を感じ、米国国立衛生研究所(NIH)に入り、20年以上もがん治療の基礎研究を行ってきました。

 そして最終的にたどり着いたのが、がん細胞だけを狙い打ちする「近赤外線光免疫療法」だったのです。
 現在、米国で臨床試験の結果が報告されていますが、光免疫療法を受けた余命3ヶ月と宣告された末期頭頸部がん患者のがん細胞が消滅して、1年以上も再発せずに生活しているとう結果がでています。

 

 

光免疫療法は2つの方法でがん細胞を破壊

 

その1.がん細胞を膨張させて破裂させる

 
1つ目の治療法は「がん細胞」だけを破壊する治療法です。
 
抗体と薬が結合した液体を注射によって体内に入れ人体に無害な近赤外光をがん細胞に照射することでがん細胞を破裂させる治療法です。
 
体内に入れた抗体は抗原であるがん細胞の表面にある突起物だけに結合する物質(特異的という)で現在20種類が判明しています。
 
更に順序立てて詳しく説明します。
 
@抗体に「IR700」という色素を結合させた液体を静脈注射によって体内を巡らせる。
 
Aがん細胞の表面にある突起と抗体の突起がドッキングする。
 
Bがん細胞に近赤外光をあてる。
 
C抗体に結合しているIR700が、がんの細胞膜に傷をつける。
 
Dがん細胞の表面に1万個くらいの傷がつくと、がん細胞に水が入り込む。
 
Eがん細胞は膨張して破裂する。
 
F破裂した破片(たんぱく質の異物)を免疫細胞が貪食して免疫力が強化される。
 
G全身の微細ながん細胞も殺傷しがん細胞が消滅する。
 
以上の流れで、がん細胞は消滅します。
 
治療時間15分から20分程度で狙った全てのがん細胞が膨張して破裂されます。
 
この治療は体表から2pから3pの深さのがん細胞に対して効果があります。
 
体の深い場所にある、すい臓がんや肝臓がんなど体表から15pほどの深さにある、がん細胞に対しては光ファイバーを使って近赤外光を届けて同じように治療することが可能です。
 
がん細胞を破裂させることで、その破片をマクロファージや樹状細胞などの免疫細胞が貪食することで免疫力が活性化して全身に転移して広がったがん細胞に対しても攻撃して死滅させることが出来ます。

 

その2.がん細胞を防御する制御性T細胞を破壊

 
2つ目の治療法は「制御性T細胞」と「がん細胞」の両方を破壊する治療法です。
 
私たちの体の免疫システムは体内に侵入した細菌やウイルス、体内で変化し死滅した細胞やがん細胞などの有害な異物を攻撃して排除する働きを担っています。
 
以上の免疫システムをコントロールしている免疫細胞があり、これを制御性T細胞(Tレグ)といいます。
 
例えば、花粉症では体内に侵入した花粉をT細胞が有害な異物と判断して攻撃するためアレルギー症状が起こります。
 
本来、花粉は有害な物質ではないので体内でアレルゲンの花粉に対して制御性T細胞が働いていればT細胞が働かずアレルギーは発症しません。
 
つまり、制御性T細胞は免疫反応の強弱をロントロールしています。
 
がん細胞は、この制御性T細胞の働きを利用してT細胞の攻撃からのがれています。
 
その詳細は、がん細胞は制御性T細胞にT細胞が間違ってがん細胞を攻撃していると信じ込ませ、T細胞の攻撃を抑制したり制御性T細胞にがん細胞を取り囲ませてT細胞からの攻撃をのがれて、がん細胞を守るように利用しているのです。
 
がん細胞はとても悪賢い細胞です。
 
光免疫療法の治療は制御性T細胞に結合する抗体にIR700を結合させて体内に送り込み、近赤外光を照射することでがん細胞を防御している制御性T細胞を破壊し、がん細胞を丸裸にすることで前述の「その1」の方法で免疫細胞に攻撃し死滅させます。
 
がんの新たな治療薬としてオプジーボが開発されていますが、オプジーボは注射を打ち続ける必要があり、更に標的以外の制御性T細胞も破壊するため自己免疫疾患を発症する恐れがあります。
 
しかし、光免疫療法では一度治療を行えば完治が見込める治療で狙った制御性T細胞のみを特異的に破壊するため自己免疫疾患などの副作用がありません。

   

 

光免疫療法はがん細胞の周りの制御性T細胞を破壊

 

がん細胞の作用によって、がん細胞の周囲を取り囲んで保護している制御性T細胞を破壊すれば防御が解除されてT細胞はがん細胞を攻撃することができるようになります。
 
最も効率よく制御性T細胞を破壊してがん細胞に障害を起こさせる抗体結合物として「IR700」が選ばれました。
 
この抗体結合物「IR700」が制御性T細胞に結合し、近赤外線を照射すると制御性T細胞が破壊されて本来のT細胞の働きが復活してがん細胞を攻撃しがん細胞が消滅します。

 

光免疫療法で転移したがん細胞も消滅

 

光免疫療法は近赤外光照射によって広範囲に転移したがん細胞を消滅できると考えられています。
 
手術で取りきることが出来なかったがん細胞に対して手術中にその部分に近赤外光を照射することで残ったがん細胞を攻撃し完全に消失させて完治させることも可能な治療なのです。

 

マウスの実験では1日でがん細胞が消滅

 

光免疫療法をマウスに用いた動物実験を行っています。
 
マウスを用いた実験では8から9割が完治したと報告しています。
 
また、がんが4箇所に転移したマウスに対して光免疫療法を用いて4箇所ある内の1箇所にだけに照射したところ、わずか1日で照射したがん細胞以外の3箇所に転移した全てのがん細胞も激減したという実験結果が報告されています。
 
光免疫療法によって免疫細胞が転移したがん細胞に対しても攻撃したと考えられています。

 

光免疫療法の日本での治療の実用化

 

光免疫療法 病院

 

2015年の4月にアメリカ食品医薬品局(FDA)は第T相の臨床試験を承認し2015年6月からスタートし現在第U相に移っています。
 
光免疫療法の臨床試験は比較的治療を行いやすい、舌がんや口腔内がん、咽頭がん、喉頭がんの患者を対象に行われました。
 
この臨床試験は全ての治療を行ったが改善の見込みがない患者が対象になりました。
 
そして、2017年6月現在には、扁平上皮がん(頭頸部がん)の患者に対する光免疫療法の効果が確認され報告されています。
 
その報告によると、舌がん、口腔内がん、咽頭がん、喉頭がんの末期の頭頸部がん患者7名に対して行われ、4名の患者で組織を取って調べてもがん細胞が消滅した結果が得られています。末期のがん患者のがんが消えたのです。
 
余命3ヶ月と宣告された患者も、再発せずに1年以上も生存しています。
 
光免疫療法は奏功率80%
治療によって症状が改善したことを示す「奏功率」では、抗がん剤の「奏功率」は7〜12%程度、免疫治療薬とされる「オプジーボ」でも約23%、これに対して近赤外線光免疫療法では、7人の症例に対して奏功率が約80%という結果が報告されています。
 
今後、扁平上皮がんだけではなく、大腸がん、悪性黒色腫、すい臓がん、乳がんなどに対しても臨床試験が行われます。
 
また、B型リンパ腫や前立腺がんなどに対しても、臨床試験の準備が進んでいます。
 
がん細胞の抗体として使えるものが現在20種類発見されております。また制御性T細胞に効果を発揮する抗体が2種類発見されています。
 
一つ一つの抗体について、臨床試験を行うことになります。
 
将来的には10種類程度の抗体で肺がんや脳腫瘍、子宮頸がん、膀胱がん、皮膚がんなど全てのがんの約8から9割に対して効果が期待されるそうです。
 
臨床試験は第V相試験まで行われますが、アメリカでは2020年から2021年までに治療への実用化を目指しています。

 

 小林久隆先生によると「臨床試験の頭頸部がんと同様に他のがんでも効果が期待できますが、攻撃の対象となるがん細胞が出すタンパク質(抗原)は、がんの種類や個人によって異なります。よって、全てのがんに対するとなると種類かの新たな抗体を作る必要があります。それらが使えるようになれば、食道がん、膀胱がん、大腸がん、肝臓がん、すい臓がん、腎臓がんなど、およそ80%のがんは治療可能になると思います。」と述べています。

 

 日本での臨床試験について

 
臨床試験
 
この光免疫療法の臨床試験が2018年3月にも国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)で開始されることが発表されました。

 

今回の臨床試験を担当する国立がん研究センター東病院の土井俊彦副院長は「食道や大腸など様々ながんに応用できる可能性があり、できるだけ早く治療法として確立したい」と述べています。

 

また、がん治療に詳しい放射線医学総合研究所病院の岡田直美・腹部腫瘍臨床研究チーム医長は光免疫療法について「どんな細胞でも、膜に穴を開ければ殺せるという発想は画期的で、効果や安全性も期待できる治療法だ」と非常に高い評価をしています。

 
楽天の三木谷浩史社長兼会長が、光免疫療法の商業化を目指している米国ベンチャー企業のアスピリアン・セラピューティクスの取締役会長に就任し、2017年3月には日本支社を設立し日本での実用化を目指しています。

 

米国の扁平上皮がんの臨床試験の資金を三木谷氏の楽天が出資し、日本支社には小林久隆先生もアドバイザーとして参加協力している関係からも日本での臨床研究は近いと考えられます。

 

厚生労働省のPMDA(医薬品医療機器総合機構)の承認を得て治験をスタートすることになります。
 
小林久隆先生は、日本での治療を前倒しをして早め、数年後には光免疫療法の治療薬が認可される可能性が出てきました。
 

光免疫療法の治療の費用

 

がんは、日本の医療費負担の大きな要因になっています。
 
この光免疫療法が治療として認可されると医療費の大幅な削減につながるため保険適用となると考えられます。
 
保険適用外の場合でも数万から十数万円と想定されていることから現在有効性が認められ認可されているオプジーボより治療費が、かなり低額となり誰でも受けられる治療となりそうです。
 

光免疫療法の治療期間

 

現在、がん患者の場合、入院や通院など長期的になるケースが多く経済的、精神的にも大きなダメージを受けてしまいます。
 
光免疫療法では短期間の2、3日の通院で治療が完了すると考えられています。
 
これまでの治療のように副作用がない点も素晴らしい治療だと思われます。

 

光免疫療法の応用

 

例えば、血液のがんである白血病や血中のがん細胞も毛布型の近赤外光照射装置を開発することで就寝時に治療することも可能であると報告されています。
 
また、近赤外光の照射量や範囲、抗体の投与量、投与法を変化させることで治療の範囲や効果をコントロールすることが可能なのです。
 
がんの治療だけではなく、リューマチなどの自己免疫疾患などに対しても応用が可能だと考えられています。
 
 
ご紹介しました「光免疫療法」、本当にすごい治療法です。2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで亡くなる時代、近い将来には2人に1人ががんで亡くなる時代が来るといわれています。
 
筆者も複数の家族をがんで亡くしており、一刻も早く臨床試験を終えて実用化されることを心から祈るばかりです。
 
 
「関連記事」
「CAR-T遺伝子治療のメカニズム/臨床結果・実績」 


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