エボラウイルスが広まった経緯と症状 致死率が高い
出典:国立感染症研究所ホームページ
最初のエボラ出血熱の流行は、1976年にアフリカのスーダン南部のヌザーラという町で綿工場に勤める男性が感染し9日後に出血しながら死亡しました。
その後、男性の同僚や友人、家族など35人が亡くなりました。
そして、ヌザーラに隣接する町にも拡大し、エボラ出血熱が終息するまでの5ヶ月間に284人が発症し、その内151人が死亡しました。
この時にザイール北部でも流行して318人が発症して280人が死亡しています。
以後、アフリカではエボラ出血熱は流行を繰り返しましたが、アフリカの特定の地域に限定されていたため、エボラ出血熱は制圧され国際的に大きな問題となりませんでした。
エボラ出血熱は、もともとはアフリカ中央部の風土病で限られた地域で流行して小規模の感染で終息していたからです。
ところが、2014年に諸外国に飛び火しました。その発端となったのが2013年12月に2歳の男児の感染発症です。
翌年にギニアでの感染拡大がみられましたが、WHOや欧米諸国の対応の遅れがありました。
そして2014年にリベリア、シエラレオネ、ギニアなどの西アフリカで大流行し医療の対応が不可能となり、政府も制御できない状態にたち至り1万人を超える死者を出して、更にヨーロッパやアメリカでも感染者が出て、大きな問題となりました。
出典:国立感染症研究所ホームページ
対応の遅れと世界のグローバル化にともない航空機による高速大量輸送時代を迎えたことが相まって感染の拡大を助長したのでした。
この時は、日本国内のテレビでもエボラウイルス病患者の映像が放映され、西アフリカ地方で患者の遺体が路上に放置されている状態に驚いた人も多かったのではないでしょうか。
今回の感染の拡大でWHOはエボラ出血熱で出血を伴わない患者も多くいることから2014年に「エボラウイルス病」に改名しました。
エボラ出血熱の最も病原性が高い「ザイールエボラウイルス」の他に4種類のエボラウイルスが発見されています。
感染源はオオコウモリが疑われていますがはっきりしていません。
森林開発などで、これまで人が立ち入った事がなかった地域まで踏み込み接触がなかった生物との接触により思いもよらないウイルスに感染しているとする研究者もいます。
エボラ出血熱は、インフルエンザのように患者の咳やくしゃみなどの飛沫感染は報告されていません。
発症した人の血液や体液、吐瀉物、排泄物などを介した直接の接触感染で広まります。
ハイリスクに対応するBSL-4施設
危険なウイルスであるため通常の研究設備では扱うことは出来ず、研究にはBSL-4と呼ばれる特別な施設で行われます。
世界には、40ヵ所以上のBSL-4の施設があります。
この施設でワクチンや治療薬の開発のために研究が進んでいます。
BSL-4 (biosafety level:BSL)とは
微生物・病原体などはその危険性に応じて4段階のリスクグループに分類されています。
「4」はリスクが一番高いことを意味しています。
グループ4
「ヒトあるいは動物に生死に関わる程度の重篤な病気を起こし、容易にヒトからヒトへ直接・間接の感染を起こす。有効な治療法・予防法は確立されていない。多数存在する病原体の中でも毒性や感染性が最強クラスである。エボラウイルス・マールブルグウイルス・天然痘ウイルスなど」と定義されています。
日本では、BSL-4施設として国立感染症研究所(武蔵村山市)で2015年8月から稼働しています。
ワクチンは開発中
2015年現在までにワクチンや治療薬はありません。
ただ、日夜開発が進められており、エボラ出血熱に感染し回復した患者の血清から精製した抗体による免疫が予防や治療に有効である事が報告されています。
また、インフルエンザ薬として開発された薬がエボラウイルスに対しても効果があることが動物を用いた実験で示され、ギニアでの人に対する臨床研究で致死率が低下することが報告されています。
エボラ出血熱の症状
血液を介するエボラウイルスの感染力は強く、注射からの針刺し事故ではほぼ100%の確率で感染すると考えられています。
エボラ出血熱の潜伏期間は2日から21日と幅があります。
発症の初期には、発熱や頭痛、のどの痛み、筋肉痛などのインフルエンザに似た症状があらわれます。
その後に下痢や嘔吐、低血圧などの症状があらわれます。
エボラ出血熱は進行が速く、歯茎やアザ等から微量の出血が起こり、重症では消化器官などの体のいたるところから出血が起こります。
死因の約90%が出血性の多臓器不全によるものです。
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