アレルギーを引き起こす最初の原因は皮膚から侵入した微細な食物や花粉、ダニの糞などのアレルゲンが原因であることがわかってきました。
この事を発見したのは、ロンドン大学のギデオン・ラック(Gideon Lack)教授で、イギリスではピーナッツアレルギーに苦しむ乳幼児が一定数いるのに、その原因が分からず問題になっていました。
ピーナッツアレルギーを起こす乳幼児はピーナッツを食べていないのにもかかわらず、一定の割合でピーナッツアレルギーを引き起こしていたからです。
同教授は、この不思議な原因を調べていくうちに、乳幼児の皮膚に塗るベビーオイルにピーナッツオイルが含まれていることを突き止め、2003年に「食物アレルギーは食べ物からではなく皮膚から起こる可能性がある」という説を発表したのです。
その後の追跡調査でピーナッツアレルギーを発症した乳幼児の実に91%がピーナッツオイルの配合されたオイルを塗っていたことが判明したのです。
保湿剤で皮膚の「フィラグリン」の働きを補うことが大切
通常、皮膚のバリア機能は「フィラグリン」と呼ばれるたんぱく質が作用しています。
フィラグリンは皮膚を守るバリアの役割をしていますが、分解されると天然の保湿剤としても働くことが分かっています。
このフィラグリンは皮膚が乾燥すると減少してアレルゲンが侵入しやすくなります。
乳幼児期は皮膚のバリア機能が、まだ完全ではないので保湿剤などを使ってフィラグリンの働きをしっかりと補う必要があるのです。
皮膚からアレルギーが起こるしくみ
アレルギー疾患にはアトピー性皮膚炎をはじめ、食物アレルギー、花粉症、気管支喘息など様々な種類がありますが、全てのアレルギー疾患の原因は皮膚のバリア機能の低下によって皮膚からアレルゲンが侵入することで起こります。
バリア機能が低下した皮膚からアレルゲンが侵入すると樹状細胞がアレルゲンに反応してIgE抗体がつくられます。
次にアレルゲンが侵入してくることで免疫システムが過剰に反応することでアレルギー症状を引き起こします。
例えば、皮膚から微細な食べ物のカスが侵入してくると免疫システムは異物に対抗するためにIgE抗体をつくります。次に口から消化管にそのアレルゲンが侵入してくると食物アレルギーを引き起こします。
別の例では、皮膚からスギ花粉が侵入すると免疫システムは異物に対抗するためにIgE抗体をつくります。次に鼻からスギ花粉が侵入すると鼻水やくしゃみなどの花粉症のアレルギー症状を引き起こします。
気管支喘息やアトピー性皮膚炎も同様の仕組みでアレルギー症状を引き起こします。
全てのアレルギーに共通しているのが最初にバリア機能が低下した皮膚からアレルゲンが侵入することでアレルギーが引き起こされるのです。
皮膚の保湿でアレルギーが3割低下
最新の研究の結果で乳幼児の時期に皮膚をケアして保湿に心がけることでアレルギーの発症を3割も低下できることがわかりました。
重要なのはアレルゲンに対するIgE抗体がつくられていない乳児から幼児期にかけてお肌のケアをして、アレルゲンになる成分を含んでいない保湿剤で保湿をすることが大変重要なになります。
一度でも皮膚からアレルゲンが侵入すると免疫システムはIgE抗体をつくりますので、つくらせない事がポイントです。
生後6か月までに確りと保湿すること
生後6か月までの乳児の時期にアトピー性皮膚炎を引き起こすと、その後の食物アレルギーとの関連が深く関連して将来的に気管支ぜんそくや花粉症を引き起こす起点になると考えられています。
よって、いかに乳幼児期に皮膚からのアレルゲンの侵入を防御するかがとても大切であり、その後の成長過程での他のアレルギーの発症を低下させることにつながります。
イスラエルとイギリスのビーナッツ比較研究
離乳期からピーナッツを食べているイスラエルの子どもとピーナッツを食べさせないイギリスの比較で、イスラエルの子どもよりもイギリスの子どもの方が10倍もピーナッツアレルギーが多いという調査結果があります。
ピーナッツに限定したことではなく卵や小麦、牛乳、ソバなど全般にいえることなのです。
以上の事が解明される中で先進各国のアレルギーに関するガイドラインも変更されています。
例えば、米国小児学会の過去のガイドラインでは「妊娠や授乳期はアレルゲンになりうる卵やナッツは避けて、乳製品は1歳から、卵は2歳から、ナッツは3歳から食べること」となっていました。
しかし、2008年のガイドラインでは、「食品を避けることでアレルギーを予防できる証拠はない」と記されています。
日本でも2005年、日本小児アレルギー学会が「妊娠中、授乳中の母親がアレルギーの原因になる食品の摂取を避けることは食物アレルギーの予防法として推奨できない」と明記しています。
乳幼児の時期にアレルギーとなる食物を制限することで逆にアレルギーが起こることは事実です。
しかし、研究ではピーナッツを食べていた子どもの中に3%余りにアレルギー症状が現れた結果から、アレルゲンとなりうる食品を食べることが全ての子どもにとって安全であるとは言えないことも明らかです。
口から入った食べ物は腸の「免疫寛容」が働く
前出のロンドン大学のギデオン・ラックが発表した下記のアレルギーの考え方が主流になっています。
1.皮膚から侵入したアレルゲンが食物アレルギーを引き起こす。
2.口から摂取したアレルゲンは免疫寛容を促進させてアレルギーを予防する。
腸は体全体の免疫の約7割を担っているといわれています。
口から入った食べ物は、免疫システムにとっては異物ですので排除すべき対象ですが、体に害を与える物質ではないため「免疫寛容」が働きます。
しかし、食べ物と一緒に入ってきた細菌やウイルスなどの有害物に対しては攻撃して排除します。
口から入った食べ物はこの「免疫寛容」によってアレルギーの発症を防いでいるといわれています。
この「免疫寛容」の働きに関係しているのが、制御性T細胞なのです。
制御性T細胞はヘルパーT細胞の過剰な反応を抑制してIgE抗体をつくるTh2の働きを抑えてバランスをとる働きをしています。
皮膚にも制御性T細胞が存在していますが働きが弱く他の免疫細胞のコントロールが十分に出来ないため皮膚から侵入した異物に対してはアレルギーに関連しいるTh2が過剰に反応を起こすことになります。
やはり皮膚のケア、保湿が大切
アトピー性皮膚炎を引き起こす一番の原因は皮膚バリア機能の低下です。
湿疹がある皮膚は角質層の間を埋めているセラミドが少なくなってカサカサになり、皮膚の潤いを保てなくなっています。
このような皮膚の状態を改善するためには保湿剤を塗って皮膚のバリア機能を改善することが大切です。
生後6か月までに皮膚の保湿を心がけましょう。
1.肌の汚れを確りと取り除く事から始めましょう。
肌が荒れて乾燥するとアレルゲンである花粉や食べ物のカス、ダニの糞などが侵入しやすくなります。保湿をする前にお肌に付いた汚れやアレルゲンを除去しましょう。但し、石鹸で洗うときに強く擦ったり、石鹸を過剰に使いすぎると皮脂が少なくなってしまいバリア機能が低下してしまいます。
2.皮膚の汚れ取り除いたあとは皮膚のバリアを保護して強化するために保湿剤を確りと塗りましょう。皮膚が乾燥するとバリア機能が低下しますので保湿剤を入念に塗りましょう。
3.保湿剤だけではアトピー性皮膚炎が防げず症状が重度の場合は医師の処方を受けた薬を早めに使って症状の更なる悪化を防止しましょう。
特に乳幼児は肌がデリケートなので低刺激の保湿剤を選びましょう。
全身への塗布が基本ですが、ワセリンは保湿効果がありますが、高温多湿の環境に向いていないため注意が必要です。
迷ったら、すぐに医師に相談しましょう。
既にアトピー性皮膚炎を発症している場合は、体内にIgE抗体が作られていますので改善することはなかなか難しくなります。
この場合は薬物治療になりますが、ステロイド剤などの薬剤に対してアレルギーを起こす人もいますので医師の指導に従ってケアをしましょう。
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