体の免疫システムのお話し


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免疫グロブリン(Ig:Immunoglobulin)とは

 
免疫グロブリン 
 
免疫の分野は、まだ未知の部分が多く世界中の研究者が解明に向けて日夜研究しています。
 
日本の免疫研究は世界でもトップクラスに位置しており、世界の最先端の研究者からも大変注目されています。
 
海外のノーベル賞受賞者の研究の基礎は多くの日本人研究者が関与しています。過去には日本人研究者がノーベル賞を受賞すべき研究成果もたくさんありました。
 
当サイトでは免疫システムの根幹を担っている「免疫グロブリンの種類と働き」について解説いたします。
 
ほとんどの疾患が免疫と関連しているといわれていますが、その代表のがんは免疫が正常に働かないしくみが解明され「光免疫療法」と呼ばれる大変画期的な治療法が発表され臨床研究に入っています。
 
この光免疫療法を開発したのは米国国立がん研究所に所属する日本人研究者です。
 
光免疫療法にてはこちらで解説しています。
 
  「光免疫療法はがん細胞を消滅させる治療」
 
 
私たちの体を異物から守る物質を抗体といいますが、抗体には幾つかの種類があります。抗体の物質名を総称して「免疫グロブリン」といいます。
 

「目 次」

 

 1. 免疫グロブリンとは

 

 2. IgM抗体の役割 免疫グロブリンM

 

 3. IgG抗体の役割 免疫グロブリンG

 

 4. IgA抗体の役割 免疫グロブリンA

 

 5. IgE抗体の役割 免疫グロブリンE

 

 6. IgD抗体の役割 免疫グロブリンD

 

 7. 免疫グロブリンのまとめ

 

 

   

 

免疫グロブリンとは

 
免疫グロブリンはB細胞によって産生される抗体です。
 
免疫グロブリンはウイルスや細菌などの異物が体内に侵入した時に体内から排除するために作られる対抗物質のことです。

 

免疫グロブリンはウイルスや細菌などの抗原に対する物質で私たちの体を守るために作られる武器とお考えください。
 
免疫グロブリンはリンパ球の一つであるB細胞が産生する物質で脊椎動物の血液や体液中に存在し、たんぱく質で作られたその構造はY字形で、このY字型の上部のふたまたの先端構造が1000億個以上(B細胞の数)もの種類があることが分かっています。
 
このように免疫グロブリンに膨大な種類があるのは、あらゆる構造をしたウイルスや細菌などが侵入してきても特異的に結合して排除することができるのです
 
特異的とは、一つの抗原に対して一つの抗体が1対1に結合し、他の抗原に結合しないことをいいます。
 
抗原に結合しない下部分の形状の違いにより「IgG、IgM、IgA、IgD、IgE」の5つのクラスに分類されていますが基本的な構造は変わりません。
 
例えば、IgGは「免疫グロブリンG」という言い方をします。
 
免疫グロブリンによる液性免疫の仕組みは次のとおりです。
 
細菌やウイルスなどの抗原が体内に侵入すると免疫の最前線に控えているマクロファージや樹状細胞が貪食(片っ端から食べることです)するとともに抗原のたんぱく質の断片を両手にあたるクラスUMHC分子に乗せてヘルパーT細胞に提示します。(これを抗原提示といいます)
 
抗原提示を受けたヘルパーT細胞は同じリンパ球の一種であるB細胞に抗原に対する免疫グロブリンを作るよう指令を出します。
 
指令を受けたB細胞は免疫グロブリンを作りますが、最初の感染による刺激では産生される数はそれほど多くありません。
 
B細胞の一部は免疫記憶細胞として体内に長く留まり、次に同様の抗原が侵入してきたときに免疫記憶細胞が刺激され、素早く免疫グロブリンを大量に産生して抗原に対して攻撃をしかけて強力に排除します。
 
次に5種類(正式にはクラスといいます)の免疫グロブリンの特徴と役割をご紹介します。

 

 

IgM抗体の役割 免疫グロブリンM

 

IgM抗体は最も大きな分子量を持つ抗体で血流中に存在し病原菌などの外敵が体内に侵入したときに免疫細胞のB細胞が最初に作る抗体がIgM抗体です。
 
IgM抗体は全体の約10%を占め、5種類の抗体が結合しあった5量体として存在し、抗原に結合しやすい構造になっています。
 
IgM抗体はIgG抗体が働く前の初期感染を担っています。
 
IgM抗体は抗原と結合して抗原を破壊し、最前線で働くマクロファージなどの白血球が抗原を捕食しやすいように助ける働きをしています。これをオプソニン化といいます。
 
通常、IgM抗体は組織中ではなく血流中に存在します。
 
IgM抗体は攻撃力はあまり強くなく、初期消火的な役割をしています。
 
外敵が侵入したときに最初に作られるのがIgM抗体で次にIgG抗体が作られ外敵の種類や外敵の侵入部位に応じて他の抗体に変異します。これを「クラススイッチ」といいます。
 
例えば、花粉やダニなどのアレルギーを引き起こす抗原には「IgE抗体」、感染症を引き起こす病原体のときは「IgG抗体」、消化管や気道に抗体を送り出すときは「IgA抗体」にクラススイッチします。
 
このクラススイッチのカギを握る物質がAID(Activation-induced cytidine deaminase)と呼ばれる酵素で、この酵素や働きを発見したのはノーベル賞を受賞した利根川進先生と本庶佑先生です。
 
基準値:35〜220r/dl
 
数値が高い場合:急性肝炎、感染症初期、自己免疫疾患など。
 
数値が低い場合:原発性免疫不全症、IgM欠損症、蛋白漏出胃腸炎など。 

 

   

 

IgG抗体の役割 免疫グロブリンG

 

IgG抗体は5種類の免疫グロブリンのうち最も多く作られて血中に多量に存在しています。免疫グロブリン全体の約75%を占めています。
 
IgG抗体には、4つのサブクラスIgG1、IgG2、IgG3、IgG4があります。
 
ウイルスや細菌に感染すると、感染初期にはIgMが攻撃しますが、その後はIgMからIgGに産生が変換されて攻撃を続けます。
 
最初に侵入した時に比べ2度目は多くの抗原を産生します。
 
IgG抗体はマクロファージなどの食細胞の働きを助け抗原の毒素と結合して無毒化する働きをもっています。
 
IgG抗体は母体から胎盤を通じて胎児に移行して胎児や新生児を保護します。
 
また、IgG抗体は免疫疾患の病気の治療で使われることの多い抗体です。
 
基準値:870〜1700r/dl
 
数値が高い場合:慢性肝炎、肝硬変、自己免疫疾患、悪性腫瘍など。
 
数値が低い場合:原発性免疫不全症、低γグロブリン血症、ネフローゼ症候群など。

 

IgA抗体の役割 免疫グロブリンA

 
IgA抗体は鼻腔や肺の気管支、腸の内壁、生殖器などの粘膜に存在し侵入してきた病原菌やウイルスなどの抗原を水際で防御する働きをしています。
 
IgA抗体は、免疫グロブリン全体の15%を占めています。
 
IgA抗体には、サブクラスIgA1とIgA2が存在しています。
 
小腸で作られるIgA抗体は消化酵素に対して強い性質を持っていると考えられており、小腸の消化酵素であるトリプシンやペプチターゼなどに消化されることなく粘液に運ばれて病原菌を排除します。
 
このようにIgA抗体は腸管免疫の働きにも重要な役割を果たしています。
 
基準値:110〜410ml/dl
 
数値が高い場合:慢性肝炎、肝硬変、自己免疫疾患、IgA腎症、悪性腫瘍など。
 
数値が低い場合:原発性免疫不全症、IgA単独欠損症、ネフローゼ症候群、悪性リンパ腫など。
 

IgE抗体の役割 免疫グロブリンE

 

IgE抗体は最も量が少なく花粉症の原因物質として広く知られるようになりました。免疫グロブリン全体の0.001%以下しかありません。
 
IgE抗体は血中の好塩基球や組織のマスト細胞と結合します。
 
IgE抗体と結合した好塩基球やマスト細胞がアレルギー反応を引き起こす抗原と結合するとヒスタミンやロイコトリエンなどの炎症物質を放出して炎症を引き起こします。
 
この炎症では、くしゃみやぜんそく、かゆみなどの症状を起こします。
 
IgE抗体は本来は寄生虫を体外に排出する抗体と考えられています。
 
IgE抗体はアレルギー疾患や寄生虫感染症で増加します。
 
基準値:358IU/ml以下
 
数値が高い場合:気管支喘息、アレルギー性疾患、寄生虫疾患、花粉症など。
 
数値が低い場合:多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病、サルコイドーシス、原発性免疫不全症候群など。

 

IgD抗体の役割 免疫グロブリンD

 
IgD抗体は免疫グロブリンの中でも1%以下の単量体の抗体で未成熟なナイーブB細胞の表面に存在してB細胞の成熟や分裂を助けていると考えられています。
 
しかし、詳しい機能や作用は殆ど分かっていません。
 
基準値:13.0ml/dl以下
 
数値が高い場合:結核、ハンセン病、IgD型骨髄腫、形質細胞性白血病など。
 
数値が低い場合:無γグロブリン血症、多発性骨髄腫(IgD以外)など。
 
 

免疫グロブリンのまとめ

 
以上に5種類の免疫グロブリンの働きをご紹介しましたが、免疫システムは非常に複雑な働きをして私たちの体を守っています。
 
免疫システムを正常に働かせるには毎日の規則正しい生活習慣が大切です。
 
精神的なストレスや肉体疲労では免疫力が低下するので注意しましょう。


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