デング熱の知恵袋 知っておきたい症状と予防法
デング熱はデングウイルスによって起こる感染症です。デングウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属に分類されています。
デング熱は、もともとはアフリカの風土病であったのではないかと推測されています。
デングウイルスの感染経路は、ネッタイシマカやヒトスジシマカなどの蚊(節足動物)の媒介によって起こります。
蚊の種類は、世界では、約3000種ともいわれ、日本では約200種も生息していますがデングウイルスを媒介するのは、ネッタイシマカやヒトスジシマカの2種とされています。
熱帯や亜熱帯の地域でデングウイルスを媒介するのがネッタイシマカで、日本では現在のところヒトスジシマカが媒介しています。
予防はヒトスジシマカに刺されないこと
出典:国立感染症研究所ホームページ「ヒトスジシマカ」
これらの蚊がデング熱に感染した人を吸血することで蚊の体内にデングウイルスが入り込み、他の人を刺すことで感染します。
人から蚊、次に蚊から人へと感染します。今のところ人から人に感染した例は報告されていません。
ヒトスジシマカの活動期間は5月から10月下旬ですので、デング熱の予防は日本ではヒトスジシマカに刺されないようにすることです。
ヒトスジシマカの特徴は、その名前の通り一本の白い線が背中にあります。「写真参照」
この蚊の生態は公園や茂みに生息し生物が出す二酸化炭素や皮膚の臭いに反応して近づき、ほ乳類や鳥類などを吸血します。
吸血するのは蚊のメスで産卵に必要なたんぱく質を求めているためです。
ヒトスジシマカの寿命は、約1ヶ月程度で産卵した卵が越冬します。今のところ卵を介してウイルスが次の世代の蚊に引き継がれたという報告はありません。
家の中に入ってくるイエカと違って野外に生息し、待ち伏せ型の蚊であり移動距離はわずかです。
いちばんの予防法は、ヒトスジシマカが生息していると思われる公園や雑草の生えた茂みに立ち入らないようにすることです。
ヒトスジシマカは、放置された空き缶や空き容器、古タイヤなどにたまったわずかな水に卵を産み付けて繁殖します。
家庭の庭やベランダなどに置いてある植木の受け皿などにたまった水でも繁殖しますので、特にヒトスジシマカの活動期間は水をためない様にしまょう。
デング熱の症状
デングウイルスの潜伏期間は、4日から7日で発症すると突然に38℃以上の高熱や頭痛、目の奥の痛み、結膜の充血、顔面紅潮などの初期症状がでます。
その後、骨や関節の痛み、全身の筋肉の痛み、倦怠感を伴います。
発症後3から4日で、体に発疹が現れて手足や顔にも広がります。
症状はおおよそ1週間で回復します。
関節や筋肉の痛みはとても強く、1779年にデング熱に遭遇した医師ベンジャミン・ラッシュはその症状から「断骨熱」と命名しているほどです。
2016年にフランスのサノフィパスツール株式会社がデング熱のワクチンを開発しメキシコ、フィリピン、ブラジル、エルサルバドルでの使用が認可されています。
日本では認可されていませんが、このワクチンの採用はさらに良いワクチンが開発されるまでのつなぎとして期待されています。
現在、日本での治療は対症療法となります。アスピリンは出血傾向が増えり、急性脳炎のライ症候群を発症する恐れがありますので個人の判断で飲まないようにしましょう。
蚊に刺されない予防法
1.肌の露出を避けることが大切です。厚手の布製の長袖や長ズボンを身につけて肌を隠しましょう。薄手の服や肌に密着した服では服の上から刺される恐れがありますので注意が必要です。
2.夏とはいえ、サンダルは避けて厚めの靴下と靴を履きましょう。
3.足首や手首、首周り、手の甲などは蚊に刺されやすい部分です。虫除けスプレーなどで防御しましょう。なお、虫除けスプレーは一定の時間が経過すると効果が無くなるので、使用上の注意を守って再度スプレーするなど注意しましょう。
また、虫除けスプレーでは蚊は近づかなくなりますが、決して死滅しないので注意しましょう。
4.香取線香も活用しましょう。因みに2014年の夏に代々木公園が閉鎖された時に隣接する国立オリンピック記念青少年総合センターの敷地には沢山の蚊取り線香が使用され駆除されていました。
症状がでない不顕性感染が5割から8割も
流行している地域は、熱帯・亜熱帯で、世界では毎年5000万人から1億人が発症し約25万人がデング出血熱を発症して約2万人が死亡しています。
デング熱は世界的にみても拡大傾向が続いており、地球他温暖化や降雨量の増加などの気候の変化が影響しているといわれています。
日本では、2014年の夏に70年ぶりに国内で感染が起こり150名以上が感染しました。
この年にデング熱を発症したのは東京都内の18歳の女子学生でした。
突然の発熱と全身の筋肉や関節が痛み体を動かすことが出来なくなって病院へ救急搬送されたのでした。
その後の検査でデング熱と診断され本人への聞き取り調査で友人と代々木公園を訪れていたことがわかり、ヒトスジシマカからデングウイルスが発見されて代々木公園が閉鎖されて蚊の駆除が行われました。
このデング熱は、ウイルスに感染しても症状がでない不顕性感染が5割から8割もあるため、気付かないうちにキャリアとなり蚊に刺されれば伝播されることになります。
再感染すると怖い「デング出血熱」を発症
また、このデングウイルスの感染症にはデング熱と重篤化するデング出血熱があります。
デングウイルスには、4種類の型がありデングウイルスに初感染した場合に起こる疾患をデング熱といい、ほとんどの場合で治癒します。
しかし、2度目に別の型に感染すると最初に感染したウイルスの型と構造が類似していることが原因となって、逆にウイルスの増殖を促進してしまいデング出血熱を起こすリスクが高くなります。
デング出血熱を発症すると発熱が続いたあとに血液中の液体成分が体内に漏れて肺にたまる胸水や体の各所から出血を起こして死に至る事もあります。
有効な治療薬はなく、症状を緩和する対処療法での治療になります。
予防は蚊の駆除や蚊に刺されないようにすることです。
1種類のワクチンでデングもジカも予防する研究
米国立衛生研究所は、2017年2月21日、デング熱やマラリア、ジカ熱、チクングニア熱、日本脳炎など全ての蚊媒介感染症を予防するワクチン「AGS-v」の第T相臨床試験の開始を発表しました。
本研究では、特定のウイルスや寄生虫ではなく蚊の唾液をターゲットにしたワクチンとして設計されているそうです。
「AGS-v」は蚊の唾液中に存在する4つの蛋白質(合成物質)を含有していて、これらの合成蛋白質は、抗体産生を介して感染防御的な免疫反応を誘導するよう設計されていて、「デング熱やマラリア、ジカ熱、チクングニア熱、日本脳炎、ウエストナイル熱など」蚊が媒介する感染症を幅広く予防できる可能性があるとしています。
「記事参照元」
1種類のワクチンでデングもジカも予防?
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