武田薬品工業は、フランスのベンチャー企業エンテローム・バイオサイエンスと共同で、腸内細菌を標的とした消化器疾患治療薬の共同開発契約を締結しました。
腸内細菌由来治療薬とは、健康な人の糞便から治療に有効な働きをする微生物を単離させて治療薬に応用する薬の事です。
人の腸内を構成する微生物は、3種類以上、約1000兆個以上ともいわれ、これらの微生物がバランスをとって共生しており、この状態が各種の花が群生している状態から腸内フローラと呼んでいます。
腸内細菌が持つ遺伝子の数は50万以上といわれ、その働きが人の健康や病気に深く関わっていることが分かっています。
欧米で主流だった「便微生物移植」
現在、欧米では健康な人の腸内フローラ全体を潰瘍性大腸炎やクロストリジウム・ディフィシル感染症などの患者の大腸に移植することで回復させる「便微生物移植」が行われています。日本でも大学の付属病院で臨床実験が始まり効果がでています。
この「便微生物移植」は、健康な人の糞便を生理食塩水に混ぜて液体化させ、ろ過したものを患者の腸内に直接注入して、腸内フローラのバランスを改善させる治療法です。
有益な微生物を単離した「腸内細菌由来治療薬」
「便微生物移植」は、治療効果が出ているものの糞便を直に注入することに対して患者の抵抗感も強いことや糞便に含まれる微生物を全て把握出来るわけではなく、安全性に疑問が残ります。
そこで、「腸内細菌由来治療薬」は、健康な人の便に含まれる有益な微生物だけを単離して投与する治療薬であるため世界的にも注目されています。
次世代シーケンサーを用いた最新の研究で、腸内フローラを構成する微生物のアバランスが崩れると、炎症性腸疾患、喘息、肥満、大腸がんなどの様々な疾患を引き起こす原因になることが分かってきました。
制御性Ｔ細胞を誘導する17種類の腸内細菌の同定
慶応大学医学部の本田賢也教授は、免疫反応を抑制する働きのある制御性Ｔ細胞を誘導する17種類の腸内細菌クロストリジウム菌の単離、同定に世界で初めて成功しました。
制御性Ｔ細胞は、免疫異常を抑える働きがあり、例えば人の体に害を及ぼさない花粉などの抗原に対してT細胞の働きを抑えてアレルギー症状などの過剰反応を抑制したり、関節リュウマチなどのように自分自身の体を攻撃する自己免疫疾患を抑える働きをするものです。
アメリカでは「腸内細菌由来治療薬」の臨床試験がスタート
このクロストリジウム菌17菌種の特許は2011年にアメリカのバイオベンチャー、べダンタ・バイオサイエンシズに導出され、炎症性大腸炎の治療薬候補「ＶＥ202」として開発が進められ、2015年１月にアメリカのヤンセン・バイオテックが「ＶＥ202」の開発・販売権を2億4100万ドルで取得しました。
そして、今年中にも第１相臨床試験が実施される予定で、単離された腸内細菌を用いた臨床試験は世界で初めてとみられています。
今後、腸内細菌由来治療薬という新ジャンルの創薬に期待が高まっています。
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