体の免疫システムのお話し


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ウイルスの殻(VLP)にがん抗原を付けた「がんワクチン治療」

 

欧米のがん先端研究 
 
アメリカの国立衛生研究所(NIH)の研究者として10年間最先端の研究にたずさわった赤畑渉氏は米国で創薬ベンチャー企業を立ち上げて「がんワクチン治療」を研究しています。
 
「がんワクチン治療」は、ウイルスの殻(VLP:Virus-Like Particle)を活用して人の体内でがん細胞に対する抗体を作らせて、体内にがん細胞を攻撃するパワーをつける治療法です。

 

   

 

ウイルスの殻(VLP)を使った「がんワクチン治療」の予備知識

 

ウイルスのイメージ図 

 

ウイルスの構造は、たんぱく質の膜の中に遺伝子のDNAまたはRNA(ウイルスでは遺伝子)をもっているだけです。
 
ウイルスは細胞に寄生しないと自己複製できないことから生物学的な分類では生物には含まれていません。
 
ウイルスは細胞に結合すると遺伝子を細胞内に注入し細胞内で複製を繰り返し増殖します。
 
ウイルスの複製は効率よく行われるため短時間で爆発的に増加します。インフルエンザウイルスでは16時間で1万個以上にまで増殖します
 
増えて増殖すると細胞を破って外へ拡散しますが、感染細胞が破壊されると宿主は発病します。
 
体内では、抗原であるウイルスに対して抗体を作って対抗し排除します。最終的には抗体と抗原であるウイルスと結合して排除し病気は完治します。
 
通常、予防として使われるワクチンはウイルスの遺伝子が害を及ぼさないように不活化させて体内に注射して、ウイルスに対する抗体を作らせます。
 
あらかじめ体内に抗体を作っておけば、次にウイルスが侵入した時に素早く抗体が対抗して病気にならず、発症しても症状を軽度に抑えることができます。
 
ウイルスの殻(VLP)を使った、がんワクチン治療はウイルスの内部のRNAやDNAを取り除きたんぱく質の殻だけを使います。 

 

   

 

ウイルスの殻(VLP)にがんの抗原を付ける

DNAのイメージ図

 

ウイルスの殻(VLP)を使った免疫治療は、ウイルスの膜の中の遺伝子を取り除いて、全く害のない殻だけにして、殻の表面にがん細胞の抗原を付けることで、体内にがん細胞に対する抗体を作らせる大変に画期的な「免疫力を活性化させる治療法」です。
 
通常、私たちの体の中では毎日数千ものがん細胞が発生していますが、免疫システムが働いてがん細胞を死滅させています。
 
しかし、免疫が低下している場合はがん細胞が大きくなって、病気としてのがんに進んでしまいます。
 
そこで、ウイルスの殻(VLP)を使って体内に抗体を増産させることでがん細胞を強力に攻撃して排除します。

 

体内は1億種類もの抗体を作れる

 

がん細胞の抗原は、がん細胞の種類によって異なりますが、抗体は1億種類ほども作ることが出来るため、あらゆる種類の抗原に対応する抗体を作ることができます。
 
現在、多くのがんに共通する抗原を付けたウイルスの殻(VLP)を作って体内に入れることで、様々ながんの種類に対応できる抗体を作ることができます。
 
認可されている新免疫薬のオプジーボは、体外で抗体を作った薬であり、体内では産生できないので打ち続ける必要があります。
 
ウイルスの殻(VLP)は数多くの種類の抗体を作ることができるメリットもあります。

 

   

 

治療への実用化まで6年を目標

 

がん治療には将来に希望がある 
 
例えば、ウイルスの殻(VLP)では体内でオプジーボを継続的に作らせることが可能なのです。
 
現在、米国ではオプジーボの治療費に3000万円以上かかっていますが、このウイルスの殻(VLP)を使った治療法が確立すれば、現在の治療費の10分の1から100分の1を目指しています。
 
マウスを使った実験では、乳がんと大腸がんで100%の成功をおさめています。
 
マウス用から人間用に変更することが必要になりますが、治療への応用まで5年から6年を目標にしているそうです。
 
研究者の赤畑渉氏は、日本でも米国と同時に臨床試験を行いたいと意気込みを語っています。


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