脂肪と筋肉が命を守る
筋肉や脂肪は体を覆っているだけの物質ではありません。
最新の研究で筋肉や脂肪が脳などの他の臓器とメッセージを交換し、私たちの健康に深く関与していることが解明されてきました。
11月5日21時からの「NHKスペシャル第2集 脂肪と筋肉が命を守る」では、これまで人類が全く知らなかった筋肉と脂肪の驚くべき能力や謎が紹介されました。
例えば、脂肪は「脳や免疫をコントロール」し、筋肉は「記憶力の増強やがん予防」に関与していることが分かったのです。
過度の肥満は、進化的にも、生存戦略上も、メリットはないと考えられています。
人類が進化の過程で選択した遺伝的・生物的な要因は、劇的に変化した現代の食生活などの生活環境や習慣との相互作用の結果、体重増加を起こしたとされています。
そして現在、私たち人類は過剰体重と肥満をあわせた割合が9割近い社会に住んでいるといわれています。
ダイエットに取り組んでも失敗するのは、臓器間のメッセージのやり取りによって起こることが解明されてきました。
「目 次」 |
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脂肪が発信するメッセージ物質とは
これまでの研究で解明されていること
「肥満細胞から分泌されるアディポネクチン」
腸や腹腔内に異常に内臓脂肪が蓄積している状態のメタボリックシンドローム、メタボリックシンドロームでは一つ一つの脂肪細胞が膨張し隣接した脂肪細胞が押し合っているため、善玉ホルモンのアディポネクチンが分泌されにくくなります。
アディポネクチンは、高血圧や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などの生活習慣病を予防するホルモンといわれています。
このアディポネクチンの分泌が低下すると心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病など様々な疾患の根本的な原因になります。
「脂肪細胞から分泌されるレプチン」
レプチンの存在は、1994年に米国ロックフェラー大学のフリードマン博士を中心とするグループによって発見されています。
脂肪細胞から分泌されるレプチンは、たんぱく質ホルモンでラットを使って研究しました。
その結果、脳の視床下部にがレプチンの濃度を感知して、高ければ食事の量を減らして代謝を上げ、低くすぎれば食事の量を増やして代謝を下げるというメカニズムで体重をコントロールしていることを突き止めました。
これは有力な仮説ですが、ダイエットに取り組んだ時に食事の量を減らすと脳は同時に代謝を下げるため、カロリー消費も低下して停滞期やリバウンドが起こってスムーズに減量できない原因ではないかといわれています。
人類は進化の過程で特に体重だけが急激に増加してきたといわれていますが、単に食生活の急激な変化だけではなく、内外の様々な要因が絡み合っていると考えられています。
最新の研究で解明されたこと
内臓脂肪や皮下脂肪を減らしたい、無くしたいと思っている方も多いと思われますが、この脂肪細胞も大切なメッセージを発していることが分かってきました。
以前より、脂肪細胞が食欲を抑える物質レプチンを分泌していることは知られていました。
脂肪細胞に十分に栄養が供給されると、脂肪細胞はエネルギーが十分であることを伝えるメッセージ物質「レプチン」を放出しますが、そのレプチンは血中に入って脳へ届きエネルギーが十分であることを伝えることで食欲が抑えられることが分かりました。
脳の視床下部にレプチンを受け取るレセプターがあることも確認されています。
脂肪はさまざまなメッセージ物質を出している
脂肪には600種類のメッセージ物質があるといわれています。
例えば、
脂肪が栄養や酸素が欲しい時には、「血管を作って」というメッセージ物質を放出します。
また、外敵が侵入してくると、「敵がいるぞ」というメッセージ物質を放出して免疫細胞に伝えます。
脂肪と筋肉は情報交換
脂肪は、脳にメッセージ物質を送って働きかけ「食欲」や「性欲」などの人の三大欲求にも関与していることが報告されています。
体に脂肪が作られない病「脂肪萎縮症」
「脂肪萎縮症」は、食欲が止まらない難病として知られています。
脂肪がないため、食欲を止めるレプチンが作られないため、食べても食べてもお腹が空く難病です。
脂肪細胞がメッセージ物質レプチンを発して脳に指令を出して食欲を抑えることが分かり、米国ではレプチンが薬として認可されて「脂肪萎縮症」の治療に応用されています。
筋肉が発信するメッセージ物質とは
筋肉も単に体を覆っているだけではなく、記憶力の増強やがん予防に関係している可能性も報告されています。
番組では、最新科学がその本当の理由を明らかにしました。
現代人は脂肪と筋肉の働きに異常が
脂肪と筋肉は、私たちの体の約70%を占めている重要な臓器です。
現代人の肥満は、安くて高脂肪、高カロリーのファストフードや糖分の多い飲料などの食生活の乱れや運動する機会の減少、過剰なストレス社会などの生活環境が影響して脂肪と筋肉の働きに深刻な異常が起きている原因の一つと考えられています。
生物化学的に脂肪は人間の進化や生命の継続にとって必要不可欠であると同時に生命に危機をもたらす側面もあると分析されています。
肥満の人では、脂肪細胞からレプチンが分泌されても、血中にコレステロールが多いため、コレステロールに邪魔をされてレプチンが脳にたどり着けなくなります。
こうなると、脳の受容体も鈍くなってレプチンを受け取りにくくなってしまいます。
メタボリックシンドロームの人がダイエットに取り組んでも、成功しないのはレプチンが脳に届かないことが原因の一つであると考えられます。
レプチンが効かないとメタボリックシンドロームに
以上のように、メッセージ物質のレプチンが脳に届かないため異常をもたらして心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、腎臓病、高血など命に関わる疾患リスクが高まることが分かりました。
更にメタボリックシンドロームでは内臓脂肪がパンパンに膨らんでいる状態で、更に過食すると脂などの栄養が次々に届き、内臓脂肪の表面につぶがぶつかります。
すると、脂肪細胞は脂を外敵と判断し警告メッセージを出して免疫細胞に知らせます。
免疫細胞は警告メッセージに応じて脂に攻撃を仕掛けます。
この時には、免疫細胞も自ら増殖して攻撃を強め暴走します。
次に免疫細胞は、血管の内部に入り込んで、外敵と見なした脂を貪食して膨らみ、最後には満腹になって破裂し内部の有毒物質をまき散らして、様々な生活習慣病を引き起こします。
この時の免疫細胞は、自然免疫のマクロファージが中心となって働きますが、マクロファージは異物を食べて消化分解するための小胞を持っています。
この小胞には、リソソームと呼ばれるリゾチームやベルオキシダーゼ、エステラーゼ、リパーゼ、ヌクレアーゼなど有害物質を溶かす消化酵素が内包されています。
マクロファージが破裂することで、これらの消化酵素がまき散らされて人体に害を及ぼすことになります。
メタボリックシンドロームの人は、ダイエットが成功しないばかりか、免疫細胞の攻撃を受けて様々な生活習慣病になるリスクが高くなると考えられます。
「レプチンは脳に働く満腹メッセージ/増やす食べ物・生活習慣」
筋肉のメッセージ物質「IL−6」とは
運動すると筋肉は、メッセージ物質であるサイトカイン「IL−6(インターロイキン-6)」を出していることが分かっています。
このIL−6には、免疫の暴走を抑える働きがあることが分かってきました。
例えば、脚の筋肉を動かしたときにメッセージ物質IL−6が放出され、メタボリックシンドロームの人では免疫細胞の働きが半分に減少しました。
人間は基本的に動く動物ですが、生活環境の変化で運動不足になり、メッセージ物質IL−6が放出されないため、心筋梗塞、脳梗塞、高血圧、糖尿病などの生活習慣病が増えていると考えられています。
先ごろ、日本の糖尿病患者の人口が1000万人に達したと報告されています。
運動を習慣化することで、免疫細胞からの攻撃を抑制できる可能性があると考えられています。
肥満は生活習慣病ですが、肥満であることで心筋梗塞や脳梗塞などの重大な疾患の引き起こす原因になります。
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