ミトコンドリアと健康


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ミトコンドリア病の病型

 
ミトコンドリア病の病型 
 
ミトコンドリアの重要な働きは、人が活動するために必要なエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)を作り出すことです。人の体を車に例えるとミトコンドリアはエンジンにあたります。
 
ミトコンドリアは全ての細胞内に数十個から数百個も存在していて、例えば肝臓のひとつの細胞にミトコンドリアが約300個あると推測されています。
 
人の体に必要なATPを作るときに副産物として活性酸素が作られます。皆様もご存知のように活性酸素は細胞を傷つける悪い働きがありますが、活性酸素の発生はミトコンドリアで沢山のATPが作られている証でもあります。
 
ミトコンドリアはATPと活性酸素が表裏一体ということになります。
 
ミトコンドリアが活発に働けば、私たちは元気でいられるわけですが、同時に活性酸素も蓄積されますので、最終的にはミトコンドリアの働きが悪くなってしまいます。
 
細胞内に発生した活性酸素を分解する酵素であるSOD(スーパーオキシドディスムターゼ)の活性が高ければ活性酸素を過酸化水素に変化させて無害化することができます。
 

 

ミトコンドリア病とは

 

ミトコンドリア病とは 

 

ミトコンドリア病の原として、ミトコンドリアDNAに突然変異が起こる場合と細胞の核の遺伝子に異常が起こることで発症することがわかっています。
 
ミトコンドリアの異変は大きく二つに分けられています。
 
「部分的欠損」と呼ばれDNAの遺伝子の一部か欠失して欠けてしまって生じる場合と「点突然変異」と呼ばれDNAの正常な一つの塩基が異常な塩基と置き換わって生じる場合があります。
 
ヨーロッパの統計ではミトコンドリア病はおおよそ1万人に1人の割合で起こるといわれています。
 
活動に必要なエネルギー産生に支障が生じて多くのエネルギーを必要とする脳や筋肉に障害が現れることからミトコンドリア脳筋症(ミトコンドリアミオバチー)とも呼ばれています。
 
例えば、脳の神経細胞で起これば視覚や聴覚、物事を理解したりすることが障害されます。
 
心臓の細胞で起こると血液を全身に送ることができなくなります。
 
筋肉細胞で起これば運動が障害されるほか、疲労しやすくなります。症状によって様々な病型に分類されています。

   

1.慢性進行性外眼筋麻痺

 

慢性進行性外眼筋麻痺 

 

瞼が上がりにくく眼が十分人開きにくいため物が見にくい眼瞼下垂や眼球の動きが悪く物が二重に見える眼球運動麻痺などの症状があり、少し体を動かしただけですぐに息切れする状態です。
 
病状には外眼筋にだけ異常があって症状がさほど進行しない軽症型と心伝導ブロックや知的退行、筋力低下などの全身の退行性変化が起こる重症型があり、重症型を特にカーンズ・セイヤー症候群(KSS)と呼んでいます。

 

2.ミトコンドリア脳筋症(メラス:MELAS)

 

ミトコンドリア脳筋症 

 

ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様症候群とも呼ばれています。
 
脳卒中のような症状や高乳酸血症を起こす特徴があります。
 
この病型では初期に頭痛やおう吐を起こすことが多いといわれミトコンドリアの働きが低下するため筋力低下や知的障害を起こすこともあり若年で多く発症します。
 
低身長で筋力低下がみられます。
 
乳酸値が高くなる高乳酸血症や後頭部に多発性の脳梗塞様がCTやMRIで認められることもあります。
 
日本の研究者によってミトコンドリアDNA内のロイシンtRNAの点変異が明らかにされ、母性遺伝をします。

 

3.ミオクローヌスを伴うミトコンドリア脳筋症(MERRF)

 

新潟大学脳研究所の福原博士のグループが発見したことで福原病とも呼ばれています。
 
この病型は、筋肉の電撃的なすばやい不随意の収縮を起こすミオクローヌスや痙攣、小脳症状、筋症状、てんかんなど主な症状で子どもに多い特徴があります。
 
病気が進行すると知的退行や運動障害がおこり、40%に心筋症を発症するといわれています。
 
この病気もミトコンドリアDNAのリジンtRNA内の点変異で起こり母性遺伝をします。

 

4.リー脳症

 
リー脳症は画像診断の進歩によって脳基底核、脳幹部に左右対称性の壊死性病変が確認できるようになりました。以前は病理解剖しなければ診断できませんでした。
 
主に乳児期に発症し発育発達の停止や筋力・筋緊張低下、呼吸障害、更に知的退行などが主症状として起こります。
 
このリー脳症は進行すると筋緊張が進んで「呼吸不全」や短期間に脂肪組織が減少する「羸痩(るいそう)」を発症後数年で死亡することもあります。治療により改善する人もいます。
 
血清や髄液の乳酸値が高くなる特徴があります。

 

5.レーバー病

 

レーバー病は、女性より男性の患者が多く、その割合は2:8で発症年齢は主に10歳から30歳です。
 
初期の症状は両眼の視力低下がみられます。
 
その後、時間の経過と共に視神経乳頭の蒼白化が始まり1年程度で視神経萎縮に至る疾患です。
 
レーバー病の症状は視力障害や視野欠損が現れます。
 
視力障害の他にも多発性硬化症様の症状を合併やジストニア、振戦、片麻痺、てんかんなどの症状を伴うこともあります。

 

6.ミトコンドリアの機能異常による糖尿病(高血糖症)

 

人体にエネルギーを供給しているミトコンドリアの突然変異によって、インスリン分泌に進行性の分泌低下が生じて高血糖を招き糖尿病になることがあります。
 
糖尿病になると罹病期間に比例して体細胞変異が蓄積して細胞レベルでの加齢が促進する恐れが指摘されています。
 
ミトコンドリアは母系遺伝であり患者の約半数で母親に糖尿病が認められています。
 
インスリン分泌の異常は難聴や心筋症、神経障害、尿細管障害などさまざまな合併症を伴う事がわかっています。
 
統計ではミトコンドリアの異常による糖尿病は日本人の糖尿病患者の約1%とみられています。

 

7.ピアソン病

 

ピアソン病はこの病気を発見したピアソン氏の名前をとってピアソン病と名付けられています。
 
新生児期、乳児期に発症して貧血に続いて汎血球減少症を起こします。
 
肝機能障害、腎機能障害に起因する尿糖、アミノ酸尿、有機酸尿を認めることもあります。
 

   

ミトコンドリア病の治療法

 

ミトコンドリア病の治療法 
 
ミトコンドリア病は国の難病に指定されていて根治法はまだ見つかっていない疾患です。
 
よって治療は症状に対応した対処療法が中心です。
 
例えば、インシュリン分泌が低下して糖尿病を起こしているケースではインシュリンを投与します。痙攣の症状がある時は抗けいれん剤を使ったりするように対処療法を行います。対処療法でも症状が大きく改善することがあります。
 
また、ミトコンドリアの電子伝達系の働きを助けるためにユビキノンやコハク酸を投与するケースもあります。
 
一方でミトコンドリアそのものにアプローチする療法も試されています。
 
ミトコンドリアの中でエネルギーを作る過程に必要な栄養素を補充する療法です。
 
しかし、ミトコンドリア内の代謝系はあまりに複雑でるため即効性はなく簡単に代謝の働きが上昇することはないと考えられています。
 
その意味では本来の食事から摂る栄養素をバランスの良いものにするなどが療法の基本になります。

 

ミトコンドリア病の診断バイオマーカー「GDF15」

 

ミトコンドリア病の診断バイオマーカー「GDF15」 

 

ミトコンドリア病と特定できる画期的な診断方法が発見、開発されました。
 
この発見、開発で不要な検査をすることなく早期に治療に取り組める道が開けたといえます。
 
久留米大学医学部小児科学講座と東京都健康長寿医療センターの共同研究グループは、早期にミトコンドリア病と特定できる画期的な診断バイオマーカー「GDF15」を発見・開発したと発表しました。
 
ミトコンドリア病の症状は様々で当サイトのご紹介しているように全身に症状や病状を呈する疾患です。
 
ミトコンドリア病は患者数が少なく様々な症状を引き起こすため早い段階でミトコンドリア病と特定することが難しく診断に長時間を要します。
 
つまり診断までに様々な不要な検査を繰り返すため時間を浪費して効果的な治療のタイミングを逃して結果的に病状が進行し患者の負担が増大する深刻な問題がありました。
 
今回の診断バイオマーカー「GDF15」の発見で不要な検査を繰り返す必要がなり早期治療に道が開かれる可能性が高まりました。
 
研究で開発した「GDF15」は病気を特定できる感度・特異度が98%とほぼ100%に近く従来型よりも20ポイントも高い世界で最も有用なミトコンドリア病の診断バイオマーカーでると報告しています。
 
病気の重症度、ひいては薬効評価にも有用であることが示され、本症診断の世界的な標準検査法となるようです。
 
ミトコンドリア病と特定するための有用な診断バイオマーカーの開発は、世界のミトコンドリア病の臨床研究者の悲願であり、今後、世界中のミトコンドリア病の早期診断・早期治療が期待されます。


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